10日に徳島市の徳島新聞社で開かれた「第5回徳島新聞 阿波しらさぎ文学賞」(徳島文学協会、徳島新聞社主催)の記念文学トーク。阿波しらさぎ文学賞の小川真我さん、徳島新聞賞の鎌田航さんと、うっかりさん、最終選考委員を務めた芥川賞作家の吉村萬壱さんと小山田浩子さんが、受賞作に対する評価や文学の魅力、創作の方法について真剣に意見を出し合った。司会は徳島文学協会の佐々木義登会長(四国大教授)が務めた。吉村、小山田両選考委員はビデオ会議システムでのリモート参加となった。

【動画URL】https://www.youtube.com/watch?v=IsI6lWpa80o

 文学トーク出席者  

〈受賞者〉
 阿波しらさぎ文学賞「火取虫」 小川 真我さん(25)東京都新宿区
 徳島新聞賞「眺め」 鎌田 航さん(29)鳴門市
 徳島新聞賞「湿り」 うっかりさん(39)徳島市

〈最終選考委員〉
 吉村 萬壱さん(芥川賞作家)
 小山田 浩子さん(芥川賞作家)

〈司会進行〉
 佐々木 義登さん(徳島文学協会長)

 信頼できる読み手、大切に 佐々木義登さん

佐々木義登さん

【受賞者と受賞作】

 佐々木 大賞の小川さんは東京から来ました。交際している彼女が徳島出身で、作品では彼女に案内された場所を取り上げていた。細かい部分が上手に書かれていて、徳島を知っている私たちにとって目に浮かぶようだった。

 小川 楽しみにしながら新幹線で徳島を訪れた。作品は、旅行で回った彼女の地元を題材にした。

 佐々木 徳島新聞賞の鎌田さんと会うのは初めてだが、作品は阿波しらさぎ文学賞の選考会で毎回読んでいる感じ。ようやく受賞された。選考会の結果を電話で伝えた時の鎌田さんはテンションが低く「そうなんですね。あそこまでやったんですが大賞じゃなかったんですね」と残念そうだった。胸が熱くなった。

 鎌田 はい。ありがとうございます。

 佐々木 徳島新聞賞のうっかりさんは数年前、県立文学書道館で私が指導している小説講座に来ていた。一番前の席に座り、真面目にずっと出席していた。その後は指導していないが、受賞作「湿り」が最終選考に残っていた時には驚いた。どうやってうまく書けるようになったのか。

 うっかり ひどい作品を書いていた。俳句をやっていて、俳句で表現したい気持ちを培い、小説に生かすことができた。

 佐々木 最終選考委員の吉村さん、小山田さん、受賞者3人に対して改めてコメントをお願いしたい。

 「生きた言葉」を紡ごう 吉村萬壱さん

吉村萬壱さん

 吉村 どれも大変面白く刺激的な作品だった。選考委員をやっていてよかった。「火取虫(ひとりむし)」は他の地方文学賞で大賞にならないかもしれないが、阿波しらさぎ文学賞では排除しない。初めに読んだ時は分かりにくかったが、読むたびに面白い発見があり「ただものではない」と感じた。小川さんは視力がよく、日常生活で見逃しやすいものを見逃していない。

 「眺め」は解釈がいろいろ許される作品。鎌田さんは戦争の資料を調査し、日常的に使っていない阿波弁を調べてよく勉強している。戦争の地獄の中で普通の人が死ぬ無念さが、阿波弁だからこそ、伝わった。戦争がこんなにひどいことかと思う素晴らしい作品だ。東北の人が読むと通じないかもしれず、阿波しらさぎ文学賞だからよかった。

 「湿り」は、俳句を趣味とする清掃員の今、そして現場のリアル感が書かれていた。その人は俳句が唯一の気晴らしで、あまりにもつらすぎる状況を回避しようと暮らしているが、うまくいかない。作品の中に「ころす」という俳句にならない言葉が出てくるが、そうした所にいたことや、人間関係のどろどろがよく表れていた。

 自分の信じること書いて 小山田浩子さん

小山田浩子さん

 小山田 いい選考ができ、現代的な面白い3作品がそろった。「火取虫」は言葉がよかったと思う。言葉一つ一つが強烈ではないが、言葉と言葉がつながって意味をなすのが分かる。

 「眺め」を書いた鎌田さんについては、昨年の応募作がめちゃめちゃよかったので今回、受賞されてうれしかった。「眺め」は、阿波弁の意味が分からない部分もあるが、流れがよくリズムがよかった。私は自分が体験していない時代のことを書くのは苦手だが、鎌田さんは資料を調べて自分の文章に落とし込んでいる。難しかったと思う。戦争や兵士に関する表現もよくて筆力が素晴らしかった。「湿り」は、われわれが生きている社会のつらさを肌で感じさせてくれた。病院で働いている人々のストレス、現実のどうにもならないものが伝わった。

【受賞者からの質問】

 小川 今後は長い小説を書かなくてはいけないと思っている。しかし体力というか、肺活量がない。100枚がきつい。どのように書けばいいか。

 吉村 肺活量は鍛えるしかない。純粋に言葉の力によるイメージのつながりだけで頑張って書いてほしい。「火取虫」を書く調子で書いてほしい。

 小山田 私はデビュー作の200枚が最高。たくさん書かなくても大丈夫。短いものでいい。焦らなくていい。

 佐々木 とにかく作品を書いてほしい。

 鎌田さん 原稿は締め切りまで粘るのか。書けないこともあるのか。

 吉村 雑誌の締め切りは絶対に守る。間に合わない時は、締め切り3日前に編集者に締め切りの延長をお願いする。

 小山田 私は締め切りを延ばしてもらったことが1度だけある。

 うっかり 書かずにぼーっとしている時間が長い。書く時のオン、オフがなかなかできない。ただ、待つしかない。書くモードにするにはどうすればいいか。

 吉村 ぼーっとしている時間は大事。書く作業は大変ではない。書くモードに持っていくのは、もやもやした時間に耐えられるかどうか。耐えられなければ書いてしまう。ぎりぎりまで待ったっていい。

 小山田 書こうと思っても書けるものではない。書きだしたら言葉はオートマチックに出てくる。いつでも書き始められるようにしておくといい。

 不思議なもの 普段から注視

小川真我さん

【創作の工夫や苦労】

 佐々木 小川さんの「火取虫」について、見過ごしそうなものに対する視線がすごい。言葉もすごい。妙な不思議な動きの連鎖を意識している。どうやって言葉にしたのか。

 小川 書きながら浮かんでくるものがあった。変な形を見たり、異常な動きを見たりすると面白いと感じている。作品に使えるものは使っている。

 佐々木 最初の1ページを読んですごいと直感した。生卵を顔にぶつけられたような衝撃を受けた。

 吉村 最初の原稿と、何度も書き直して完成した原稿は違うと思うが、変えようと思った時の感じを言葉にできるか。

 小川 最初とは全然違う。書いた原稿を彼女に1度読んでもらい、切れるところは切った。徳島駅前の商店など入れたい所もあった。自分一人の力だけで切ることはできなかった。

 小山田 私も(徳島出身の)夫に読んでもらったことがある。書いてから半年たって忘れてから読み返すと、よく分かることもある。

 吉村 作品は、家族には絶対読ませない。特に妻には読ませない。信条としている。表現が限られてくるような気がするから。妄想であっても、知人などが出てくると気になって穏やかでなくなり、だんだんとたまるものがある。

 佐々木 信頼できる優秀な読者や編集者がいると、書き手がその人たちのアドバイスを参考にできる。ある種の幸運。鎌田さんの作品は、資料をよく調べていました。

 徹底した下調べ 現実感生む

鎌田航さん

 鎌田 戦争には2年前から取り組んでいた。眉山山頂のパゴダに足を運ぶと、中には資料がたくさんあった。参考文献もネットなどを活用して調べた。

 佐々木 作品では、私の祖父母が話していたような古い阿波弁をリアルに再現していた。調べるだけではできないと思うが。

 鎌田 仕事で高齢者と関わる機会が多く、ネーティブな阿波弁をよく聞いている。いい阿波弁だと思ったらメモしていた。小川さんも気になったことをメモするそうで一緒だと思う。

 吉村 だから、リアリズムがあるんじゃないかな。一種の取材だ。

 佐々木 日々、小説を書く前提でアンテナを高く、広い方向に向けているということだ。小川さんは25歳、鎌田さんは29歳。2人の作品は20代の若者が、到底書けると思えないような文体だ。

 吉村 鎌田さんの受賞作は戦争がテーマだが、ロシアのウクライナ侵攻なども関係しているか。

 鎌田 昨年、書き始めた。書いたら(戦争が)起こったという感じです。

 吉村 3作品ともに個人的なことを書きながら普遍性を持ち、世界と時代を反映している。

 俳句の表現を小説に生かす

うっかりさん

 佐々木 うっかりさんの「湿り」はまさに現代の暗部を切り取っていた。

 うっかり 昨年、この授賞式に来て、小山田さんに「書けない時はどうすればいいですか」と質問すると、小山田さんは「日記を書いたらどうでしょうか」とアドバイスをくれた。日記は書けず、メモを書いてつないで小説が書けた。

 吉村 うっかりさんのメモは俳句用か。どんなメモか。

 うっかり 本来は俳句用のメモ。季語が入っていないもので、1行日記の役割を果たしている。俳句にならず文章にできた部分がある。

 小山田 作品の中に登場する幾つかの俳句を見ると、思考の軌跡、創作の仕方が分かる。

 佐々木 小説の中だが、俳句がよく効いている。驚きと新鮮さを感じた。

【作品のよしあし】

 佐々木 受賞作は、他の文学賞なら選ばれなかったかもしれない。文学作品の良しあしとは何なのか。受賞作と受賞しなかった作品との境目はどこにあるのか。

 吉村 世の中にはたくさんの文学賞がある。だから阿波しらさぎ文学賞の特色があっていい。受賞作を読んで離れる人もいれば、引き寄せられる人もいる。作品に境があるとすれば、筆力、リアリティーがあるかどうか。自分が本当に感じたことを言葉に乗せられているかどうか。これは単にイメージを並べただけではできない。

 小山田 私も自分にとって本当だと信じていることを書くことが大切だと思う。何らかの思想のようなものに頼って書くのではなく、本当のことを積み重ねて書いてほしい。

 佐々木 作品は、こうやれば書けるというわけではない。今後、作品を応募する人に対してコメントをしてほしい。

 吉村 不自然だと思う言葉は恐らく死んだ言葉だ。死んだ言葉には力がない。「生きた言葉を紡ぎたい」と思って小説を書いてほしい。先を見通せない時代に言葉の力を取り戻せるような文学賞にしたい。

 小山田 できてから読み返し、声に出して読んでほしい。徳島の素材は出尽くしたと思ったが、まだまだありそうだ。

 佐々木 第5回を迎えた阿波しらさぎ文学賞は全国に知れ渡るようになった。これからも多くの人がチャレンジしてくれる文学賞であり続けたい。今日はありがとうございました。

 受賞作品 あらすじ

 火取虫 主人公の秋男が、恋人の夏女(なつめ)の故郷徳島へ一緒に帰郷し、夏女の思い出の場所を巡りながら幻想と幻覚を体験する物語。秋男は徳島を巡る途中で疲弊し、道端で地獄を目撃する。夏女と眉山にあるホテルに入った秋男は、そこで夏女が持っていたホームビデオを見る。映像の中で鬼と火遊びする夏女。秋男は夏女のところへ、どうにかたどり着こうとするが… …全文を読む

 眺め 眉山山頂にある平和記念塔パゴダに眠る戦没者の魂が語るビルマ戦線の凄惨(せいさん)な思い出がつづられる。徳島からたくさんの兵士がビルマに送られ、死の行軍や渡河を強いられた。作品では犠牲になった主人公の痛々しい鼻や口、耳、目が、幼い頃の思い出を絡めながら語る。全編を通して貫かれる阿波弁。そして、残酷な描写。兵士が死の間際に見たものとは… …全文を読む

 湿り 雷鳴とどろく大荒れの雨模様の中、清掃員たちが防護服を着込んで受け持ちのコロナ病棟の清掃作業に当たる様子を淡々と描いた。作業員が抱える悩み、同僚の仕事への不満など複雑な人間関係の難しさを丁寧に追う …全文を読む