さまざまな分野に関心がある中西さん、最近は落語鑑賞と金継ぎに夢中だそう。

さまざまな分野に関心がある中西さん、最近は落語鑑賞と金継ぎに夢中だそう。

ロードバイクを中心に、シティサイクルや「BROMPTON」の折り畳み自転車などが所狭しと並ぶ店内。8月末にレイアウトを一新し、動線を整えた。

ロードバイクを中心に、シティサイクルや「BROMPTON」の折り畳み自転車などが所狭しと並ぶ店内。8月末にレイアウトを一新し、動線を整えた。

 徳島の自転車業界でその名を知らない人はいない「ナカニシサイクル」。徳島城公園、鷲の門のほど近くで歴史を刻み、再来年で創業120年を迎える。まちの自転車店としてありつづけながら、徳島の自転車界を牽引するレジェンド的存在。現在、代表を務める中西裕幸さん(53・徳島市出身)は四代目になる。

 創業は1904年。商家の四男であった初代が、ラジオ商と自転車店を立ち上げたのが始まりだ。「自転車を担ぎながら自転車に乗って、1日かけて池田町まで配達に行っていた」「太平洋戦争でチューブが配給になったときは、代わりに布団の綿を入れてしのいでいた」…口伝のエピソードの数々に、歴史の長さを改めて実感する。

 幼い頃から自転車に囲まれ、油のにおいを嗅いで育った中西さん。「祖父からも父からも『店を継いでくれ』とは一度も言われず」、徳島商を卒業後、京都の高級ホテルに就職した。ホテルマンとして多くの著名人や要人をもてなす刺激的な日々。と同時に、今でも一番の趣味という「見聞を広げること」を極めるべく、オーセンティックバーでもアルバイトをしていた。「バーにはいろんな所作がある。ウイスキーのステアの方法だったり、シェイカーを持つ手の角度だったり。それがすごくおもしろくて『もしかしたら、自転車の世界で行われている作業にも、一つひとつ所作や理由があるんじゃないか』と思いはじめたんです」。父が病に倒れたことが決定打となり、22歳で帰郷した。

 当時、日本は第一次マウンテンバイクブームの真っ最中。地元企業から「マウンテンバイクのレースを開けないか」と持ちかけられ、夏の腕山スキー場でレースを開催した。「実家に戻ったばかりの22歳の若造。自転車のレースを開くなんてもちろん初めてで大変だったけど、これが転機になりましたね」。そこから競技の世界にのめり込み、数々の国際大会に審判員として参加。オリンピックの舞台でのジャッジを夢見て、ヨーロッパで修業を積んだ。「自転車競技の最先端であるヨーロッパ。それを間近で見られたことが、今の引き出しになっています」。

 2013年に代表に就任。「自転車にまつわるすべてのことをしたい」と、これまでの大会主催に加え、アパレル専門ショップ「ITOMONN」の開店や実業団「徳島サイクルレーシング」の発足など、さまざまな取り組みを行ってきた。2年ほど前から始めたのは、ボランティアでのサイクリングガイド。お客さんの脚力や嗜好に合わせてオーダーメイドのツアーを組み立て、中西さん自ら案内する。「自転車そのものを売るだけじゃなくて、お客様と一緒に自転車で遊ぶことで、自転車を楽しむ“環境”を作っている。遊び方を提案して、お客様の楽しみの幅を広げたいんです。ロードバイクって、玄関を開けたらもうそこにフィールドが広がっているんでね」。

 「今、自転車店は大転換点にあるんです」と中西さん。一体どういうことだろうか。「これまでの自転車店は、セレクトショップのような、いろんなメーカーの商品を取り扱う形態がメジャーだった。けどここ数年、各メーカーの方針が変わってきている。一つのメーカーの商品のみを販売するブランドショップのような店舗に、商品が集中的に流れるようになっているんです。コロナ禍を経て、その流れが一気に加速しています」。現在のナカニシサイクルは前者。ブランドショップ化の流れに対応するには「今と真逆のことをしないといけない」という。しかし、当の中西さんは「楽しみでしかないですよ、どういう風になるのか。先代たちも、時代に合わせて業態を変化させてきたと聞いています」。悠然と構えるその姿に、老舗の真髄を見た気がした。

ナカニシサイクル
徳島市徳島本町1-6
088-625-2864
営業時間=10:00~19:00、日祝10:00~18:00
定休日=水曜休

駐車場:あり
多機能トイレ:なし
Wi-Fi:なし
キッズスペース:なし
創業:1904年