地方で人手不足が進む状況を受け、障害者雇用に注目が集まっている。ハローワークを利用した2021年度の障害者の就職率は、全国的にも2年ぶりに増加した。ただ、徳島県内の障害者の新規求職申し込み1174件に対し、就職件数は649件と約半数。県内企業の障害者雇用率は2・26%(21年6月1日時点)で、法定雇用率の2・3%を下回っている。「仕事を通じて働く楽しさを知った」。そうした声が聞かれる中、「自分も働きたい」と意欲のある障害者が仕事に就くためには、どのような支援が必要なのだろうか。

『誰もが』幸せに働ける職場 その人の特性を見極めて 徳島の障害者雇用はいま㊦
https://www.topics.or.jp/articles/-/774481

 

「フルタイムで働きたい」 障害者自らがPR 

障害者雇用をPRするプレゼン大会=徳島市シビックセンター

 9月2日、企業経営者らを前に障害者が自らをPRするプレゼン大会が徳島市で開かれた。参加したのは知的、身体、精神障害がある20~60代の男女10人。「うつ病のため疲れやすいが、短時間勤務から始めて最終的にはフルタイムで働きたい」。「注意や指摘に弱いので感情的に話すのではなく、やんわりと伝えてほしい」。それぞれが自身の経歴や障害の特性、仕事に対する思いなどを語り、働く意欲をアピールした。参加した飲食店経営の男性は「人手不足で困っているところに、『障害者雇用はどうか』と友人から誘われた。障害がない人と何ら変わりない。みんな雇用したいと思った」。

 

「病気のことを知ってほしい」 ある女性の思い

ステージに上がって思いを伝える西村さん

 登壇者の1人、西村楓華さん(22)。知的障害があり、全身性エリテマトーデス(SLE)という難病を患っている。西村さんは会場で「病気のことを広く知ってほしい」と話していたが、そう思えるようになったのはここ数カ月のこと。数年前に病気が発覚した当初は生きる気力を失い、自宅に引きこもっていたという。

 

難病や障害と付き合いながら働く日々

シイタケを収穫する西村さん=阿南市の就労継続支援A型事業所「mogu」

 西村さんは今年2月から週5日、阿南市にある就労継続支援A型事業所「mogu(モグ)」に通っている。利用者は15人程度で、シイタケの栽培・収穫やカブトムシ用の飼育マット作りをみんなで手分けして行う。西村さんは紫外線アレルギーのため、夏の暑い日でも長袖で作業している。倉庫内の棚に並べられたシイタケの育ち具合を確認し、慣れた手つきで獲っていく。

 

「怖い」「楽しいことが何もない」と引きこもっていたけど…

病気の発覚から今までを振り返る西村さん

 全身性エリテマトーデスは免疫異常でさまざまな臓器に炎症や障害を起こす病気だ。そのため、作業中、思うように体が動かせないこともある。
 病名が判明したのは、20年3月。初めはけんしょう炎かと思ったが、2週間たっても手首の痛みが取れなかった。2月末に自宅近くの病院で診てもらうと血液検査で異常が指摘され、大学病院での受診を勧められた。「どんな病気なんだろう」。受診までの数週間の間にも、体がコントロールしづらくなっていくのが分かった。3月下旬、大学病院の医師から「全身の関節が痛くなる」と聞かされ、SLEと診断された。

 病気についてスマートフォンで検索すると、いろいろな情報が出てきた。亡くなった人もいるらしい。怖い。「自分もそうなるんかなって考えたりした。外に出るのも嫌になって、『死にたい』としか思ってなかった」
 当時、障害者枠で県内の化学会社に勤務していた。朝から夕方まで働いていたが、5月頃から半年ほど休職することに。先の見えない不安に駆られ、自分で自分の体を傷つけるようになった。「外の空気を吸わんと」と家族が連れ出してくれても、気持ちは晴れない。病気のことを話すのがつらくて、友人と音信不通になっていった。自分の部屋にこもり、一人静かに泣いたこともあった。

 そんな西村さんを救ってくれたのは、中学校時代の後輩だった。8月、連絡の取れない西村さんを心配して訪ねてきてくれた。病気について話すと、「(病気で亡くなった)その人と同じ症状になるとは限らんよ」と言われて、気持ちが少し楽になった。
 ただ、仕事を続けるのはつらかった。10月に復帰したものの、薬の副作用もあり、朝起きられなかったり途中で帰宅したりする日が多かった。以前はできていた作業ができなくなる。「会社に行っても周りに迷惑を掛けている」と自分を責めた。

 翌21年、会社の担当者から更新できないと言われたときは「逆にほっとした」と振り返る。働きたいと思って自らつかんだ就職先だったが、「会社の負担になっていることがストレスだった」。21年10月、仕事を辞めて、趣味の裁縫やアクセサリー作りなどに没頭できる時間が増えた。後輩を通じて友人の輪も広がり、徐々に心が上向きになってきた。

 

いつかは障害者の支援を モグに来てから感じたこと

職員と話す西村さん(左)

 モグに足を運んだのは、今年の2月。利用者はみな明るく、積極的に話し掛けてくれた。職員もフレンドリーで、すぐになじんだ。「表情が暗かったら声を掛けて話を聞いてくれて助かる。前向きに考えさせてくれる」と笑みがこぼれる。
 ここに来てやりたいこともできた。自分の病気について発信することだ。7月にモグで行われた研修で、ある利用者がみんなの前で自身の過去について話しているのを聞き、心を打たれた。話に共感し、過去を打ち明ける姿に感動して「自分も人前で話していきたい」と思った。「指定難病は数が増えているけど、よく分からないと言う人が多い。病気のことを広めていきたい」と話す。

 西村さんは薬を服用し定期的に病院を受診しながら、モグに通い続ける。なんともない日もあれば、体の中が締め付けられるような痛みや息苦しさを感じる時もある。障害者が長く働くためには、障害への理解や本人の意思確認が欠かせない。西村さんの場合は「心配されすぎると負担になる」と語る。「作業が思うようにできていない時は『なんでできんの』じゃなくて、まずは声を掛けてほしい」とアドバイスする。
 今は1日5時間、作業を行っているが、8時間働けるようになるのが目標だ。「病気のこともあるので、将来、何があるか分からない。生活を安定させたい」。いずれは障害者の支援に関わりたいと思っている。「障害がある私だから相手の気持ちも分かる。話を聞いたり相談に乗ったりして相手を理解したい」。