無投票になった2015年12月の神山町議選を巡る公選法違反事件で、徳島地検は23日、公選法違反(寄付行為)の罪で元町議4人を起訴、1人を在宅起訴した。県警は公選法違反(買収)容疑で逮捕・送検していたが、地検は「買収罪では証拠不十分のため、寄付の制限違反の罪を適用した」とした。

 現金を受け取ったとして逮捕されていた山本充良元町議(77)=同町鬼籠野=は、買収容疑に対して嫌疑不十分で不起訴処分となった。

 起訴されたのは▽元議長の細井成富(73)=同町阿野▽元副議長の中西富士男(61)=同町鬼籠野▽高橋和男(67)=同町神領▽相原浩志(72)=同町阿野=の元町議4人。体調不良で身柄を拘束されていない樫本雄一元町議(69)=同町下分=は在宅起訴された。5人はいずれも20日付で町議を辞職した。

 地検は寄付行為に切り替えた理由について「(物的証拠や供述を含め)買収罪で起訴するに足りる十分な証拠が集まらなかった」と説明。寄付行為には受け取った側に罰則規定が設けられていないため、山本元町議を23日に釈放した。

 起訴状によると、5人は共謀。15年12月23日ごろに高橋元町議方で、町議選の選挙区内に住む山本元町議に慰労金などの名目で現金50万円を渡し、選挙に関連して寄付をしたとしている。

 地検は5人の認否を明らかにしていないが、一部を除き、買収容疑を否認していたとみられる。

 

 ■解説 物証の乏しさ 壁に

 神山町議選を巡る公選法違反事件は現金授受の趣旨が焦点だったが、徳島地検は買収目的での起訴に踏み切れなかった。事件から2年以上がたち、物証の乏しさなどが壁となった。

 現金授受の事実は、逮捕前からはっきりしていた。疑惑発覚後の今年1月、高橋和男被告らが町議会全員協議会に提出した報告書で認めていたからだ。

 ただし、趣旨については「慰労名目だった」などと強調して買収目的を否定。これに対し、現金を受け取った山本充良元町議は、記者会見などで「不出馬の見返りだった」とし、主張は食い違っていた。

 捜査関係者によると、高橋被告らは逮捕後も報告書の主張をほぼ崩さなかったという。加えて、各被告の自宅や町議会事務局の家宅捜索でも決定的な物証は見つからず、高橋被告らの供述に寄った起訴内容になったもようだ。

 高橋被告ら5人は疑惑発覚後、取材に「やましいことはない」と発言。うち2人が正副議長に就くなど、問題を軽視するかのような態度を取り続けていた。寄付行為の違反での起訴となったが、裁判で真相を究明し、刑事責任を問う意味は大きい。
  

 ■告発した4町議 「法廷で真相解明を」

 神山町議会の元町議5人が起訴されたのを受け、5人を刑事告発した現職の町議4人は23日、議会で解明できなかった事件の真相が法廷で明らかとなることに期待を寄せた。

 昨年12月の町議会全員協議会で、告発に至る発端となった金銭授受疑惑を指摘した新居榮二町議は「法廷で真実が明らかになることを願う」としつつ、「もう少し早く辞職するなど5人が非を認めていれば、告発には至らなかったかもしれない」と複雑な心境をのぞかせた。

 「本来は議会でただすべきこと。ただ、公判で真相が究明されることで当初の目的は果たせる」と話したのは西崎哲夫町議。「同僚議員を告発するのは苦渋の決断だったが、疑惑をうやむやにすることはできなかった。意味があった」と述べた。

 佐出由恵町議は「寄付だけでも違反は違反。『選挙と金』への意識を改め、神山町の選挙が透明性のあるものに変わるきっかけになるはずだ」と力を込めた。

 現金を受け取ったとされる元町議の山本充良氏は不起訴になった。告発した4人はもともと山本氏の処罰を求めていなかった。森本吉治町議は「不起訴の是非は何とも言えない」とした上で、「問題が発覚したのは山本さんの証言があったからこそという面もある」と話した。