公選法違反罪で罰金の略式命令を受けた藤田元治前市長の辞職に伴う美馬市長選は、前副市長の加美一成氏が新人3人による争いを制した。

 加美氏は自治体職員としての行政経験が豊富で、藤田市政を継承する意向を明言している。有権者が堅実な市政を求めた結果と言えよう。

 市が発足した2005年以来、17年ぶりの選挙戦で加美氏は選ばれた。重い負託を忘れず、市の発展に尽くしてもらいたい。

 選挙戦は、市議の大半や地元県議などから支持を得た加美氏が組織力を生かし、手堅く票をまとめて他の2候補を振り切った。ただ明確な争点はなく、個別の市政課題に対する考えやスタンスの違いははっきりしなかった。

 新型コロナ感染症との共存を視野に入れたまちづくりや市の将来像を語る場面も乏しく、政策論争を期待した市民には物足りなかっただろう。

 投票率が64・88%となり、05年を17ポイント余り下回った一因とみられる。選挙決定から1カ月余りしかなかったとはいえ、各候補者の主張が有権者を引きつけなかったのは残念だ。

 市政不信も投票率に影響したのではないか。新市長がまず取り組まなくてはならないのは、市政の信頼回復である。

 加美氏は前市長の事件について選挙戦ではほとんど触れなかった。藤田氏が市役所内で違法行為を重ねていたため、側近だった加美氏の責任を問う声もある。自身が得た票が他の2候補を合わせた票とほぼ同数だったのは、強い批判の表れでもあり、重く受け止めるべきだ。

 課題はほかにも多い。

 前市政が重要コンセプトに掲げた「美と健康のまち」は、本年度から本格的に事業着手された。美を絡めて市民の健康寿命延伸や高齢者の社会参画促進を図るユニークな試みだが、まだ浸透度は低い。

 加美氏が人口減少対策の中心に据える子育て施策では、県内で最初に導入したデジタル地域通貨を活用する考えを訴えた。同時に経済の活性化も目指すというものの、具体的な手法は示していない。

 コロナ禍で2年半に及んだ水際対策が近く大幅緩和されるインバウンド(訪日客)の受け入れに、どう取り組むのかも重要だ。うだつの町並みや世界農業遺産の急傾斜地農法を生かす観光戦略を練り直すことが求められよう。

 加美氏は「すぐに補正予算を編成する」と述べ、物価高騰対策を急ぐ姿勢を強調している。どういう独自策を打ち出すのか、早速手腕が問われる。