徳島県立博物館編「描かれた地震」

徳島県立博物館編「描かれた地震」

 徳島県立博物館が2011年秋に開いた企画展「描かれた地震」の展示解説書である。江戸時代に大量に出回った「鯰絵(なまずえ)」の図版がふんだんに収録されている。

 幕末には安政東海地震、安政南海地震(ともに1854年)、安政江戸地震(1855年)といった大地震が頻発し、人々は天変地異の恐怖におののいた。当時は「地下に潜む大鯰が動くと、地震が起きる」という俗信があり、鹿島神宮(茨城県)にまつられた要石は地中の鯰の頭を押さえ、封じ込めたものとして有名である。

 地震をもたらす大鯰は、こうした鯰絵では厄介者として扱われている。鹿島大明神に懲らしめられたり、わびを入れさせられたりしている…。ただ、それだけではなかった。しばらく時期がたつと、震災の復興景気で恩恵を受けた商人や職人たちから「世直し鯰」と、大いにもてはやされもしたのだ。江戸の町で、地震で崩れた家から人々を助け出す鯰たち(擬人化している!)は、まるで世直しのヒーローだ。

 また、幕末の江戸湾に突如現れた巨大鯰の絵を巡っては、「米国からやってきた黒船に見立てた」との解釈もあるという。

 大災害が相次ぎ、幕藩体制も大きく揺らぐ中で生まれた鯰絵には、庶民の意識が反映した風刺画だといえよう。そこには、災害からどうにかして逃れ、平穏に暮らしたいとの願いが込められていることは間違いない。その点では巨大地震に加え、温暖化に起因する異常気象がもたらす大雨・洪水が続き、新型コロナ禍にさいまなれる現代とて、思いは同じであろう。

 このほか本書では、国内最古とされる「康暦碑」(美波町)をはじめ、阿波徳島の先人たちが地震・津波災害の記憶と教訓を伝えるために建立し、大切に守り伝えてきた供養碑なども紹介されている。

 「マグニチュードと震度はどう違う?」「南海地震による地面の隆起と沈降」「活断層がもたらす水の恵み」「地震の神サマ ナマズウシ」のコラム4本も掲載し、読み物としても充実している。学校や家庭、地域での防災テキストとして活用してほしい一冊だ。

 徳島県立博物館編「描かれた地震」は350円(税込み)。県文化の森総合公園内のミュージアムショップで販売中。県立図書館で閲覧できる。

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