オレが家に来てからは、アンナの性格も変わったようだ。

 いつかママがオレの毛づくろいをしながら、こんなことを言っていた。

「マルが来てくれたおかげで、アンナは明るくなったよ。ありがとうね、マル」

 そんな時、オレは何とも言えない、誇らしい気持ちにさせられる。

 オレはアンナが大好きだし、アンナもオレを愛してくれた。

 2人だけのヒミツもある。それはオレがこの家にやって来て、一番ビックリしたことに関係している。

 そう、それは食事のおいしさだ。〈ネコカフェ〉時代は“エサ”だったものが、この家に来てからは“ご飯”に変わった。

 魚の切り身の入った“ご飯”の、なんとおいしいことだろう!

 それまで仲間たちと奪い合うようにして食べていた、味気のない、パサパサした“エサ”に比べて、この家の“ご飯”はあまりにも素晴らしい。

 上り立つ磯の香りを嗅ぐだけで、オレはまだ見ぬ海という所を想像できた。

 パパが「オレが学生のころよりも、マルはいいものを食べてるよなぁ」というのも大げさではないのだろう。それくらい、家の〝ご飯〟はおいしかった。

 ママに与えられるまま、オレは“ご飯”をほおばった。おかわりをもらうためなら、あれだけ小バカにしていたぶりっ子も、いくらだってしてみせた。

 ママの目をじっと見つめて、クーン、クーン。そんなことをするだけで、オレはおかわりにありつける。

 食べて、食べて、ゴロゴロして。また食べて、ゴロゴロして。

 そんな風にのんびり、楽しく過ごしていたある日。オレはとんでもないことに気づいてしまった。窓にでっぷりと太ったネコが映っているのだ。

「んー? あれー? マルってこんなにデブだったっけ?」

 パパがそんなことを言い出したのも、ほとんど同じころだった。

 その数日後、オレは突然食事を変えられた。なんでも“ダイエットフード”というものらしい。

 こいつがとにかくひどかった。味もなければ、香りもない。パサパサ感は〈ネコカフェ〉の“エサ”以上で、食べていると悲しくなった。

 そんなオレの悲しさに、アンナだけが気付いてくれた。アンナはたまにママの目を盗んで、オレに“ご飯”を与えてくれた。

「マル、2人のヒミツだよ。絶対ママに言っちゃダメだよ」

 なぜかアンナは泣いていた。無我夢中で“ご飯”をほおばるオレに向けて、アンナは続けてこう言った。

「でも、食べ過ぎちゃダメだからね。絶対に病気はしないでね。長生きしてね、マル」

第5話はこちら。
https://www.topics.or.jp/articles/-/781079