国宝の名刀や、重要文化財などを紹介する特別展「新たな国民のたから」が28日から徳島市の徳島城博物館で開かれる。文化庁が貴重な文化財の散逸や海外流出を防ぐために購入した宝物を公開する企画で、四国では初開催。徳島藩主蜂須賀家などにゆかりの重要文化財23点を含む39点が紹介される。8月26日まで。
蜂須賀家伝来の重要文化財の一つが13世紀の「西行物語絵詞(えことば)」。平安末期の歌人西行の生涯をたどる絵巻物としては現存する最古のものとして知られる。江戸幕府の御用絵師として名をはせた狩野家を経て、蜂須賀家が昭和初期まで所有していた。
絵巻物には旅をする西行の姿が雄大な自然の中に描かれている。流麗な筆遣いと鮮やかな色彩で、鎌倉時代前期の大和絵の水準の高さをうかがわせる。
重文「短刀 銘吉光」は京都の刀工吉光(通称藤四郎)が13世紀に制作した。刃渡り24・6センチで、反りがないのが特徴だ。所有者は小倉藩主で「最後の戦国武将」の異名を持つ小笠原忠真。忠真の姉、氏姫は初代徳島藩主蜂須賀至鎮(よししげ)の正室に当たり、この名刀の背景に、幾多の歴史秘話があることを想像させる。
たばこを入れる「妙法山遠望図蒔絵巻莨(まきえまきたばこ)箱」には、奥秩父の山並みや秩父宮親王が山に登る様子が巧みに表現されている。学習院初等科以来の学友だった蜂須賀家当主の正氏(まさうじ)が、秩父宮親王の結婚祝いとして贈った品だ。
国宝の名刀は、刀剣の五箇伝の一つ「相州伝(神奈川県)」の大成者、五郎入道正宗の「金象嵌(ぞうがん)銘 正宗本阿(まさむねほんあ)」で14世紀の作。刃渡り67センチで、反りが高く、刃の幅がやや広めで正宗の作風が顕著だ。表裏に金で銘を刻んでいる。本多忠勝から徳川家康、水戸徳川家などに伝来した。
このほか重文では、ほぼ完全な形で阿南市で出土した弥生時代後期の「流水文銅鐸(どうたく)」、四国出兵に関して羽柴(豊臣)秀吉が土佐の長宗我部元親の望みを退ける趣旨の文が書かれた「小早川家文書」、形のよい鍬形(くわがた)と鋭い前立てを持つ南北朝時代の兜(かぶと)などが見応えがある。
最後の藩主蜂須賀茂韶(もちあき)が明治初期に皇室に献上した料紙箱と硯(すずり)箱は、徳島藩の御用蒔絵師飯塚桃葉の制作。宇治川の川面にホタルが舞う情景が施されており、金銀の輝きと共に趣がある。
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7月29日午後1時半から同館学芸員による展示解説がある。8月25日午後1時半からは、文化庁の伊東哲夫文化財調査官による講演会「刀をめぐるよもやま話」がある。