高松市郊外の新興住宅地。大学や企業の研究機関が進出している香川インテリジェントパークの隣接地に小児科医院を開いて8年になる。周辺は子育て世帯が多く暮らしており、かかりつけ医として地域の小児医療を担っている。
風邪やアレルギーから慢性の心臓病までさまざまな患者の診察に当たる。モットーは患者とその親に寄り添うこと。「病気の子と親は大きなストレスを抱えている。病気を治すだけでなく、心のケアが大切だ」と力を込める。
小児科医を志したのは幼少期に病気がちだったことがきっかけ。城東小6年の卒業前に交通事故でむち打ち損傷となり3カ月入院。打ちひしがれていたが、主治医から「治ったら一緒にキャッチボールをしよう」と励まされ「先生のような医者になりたい」と思った。その後も慢性腎炎を患って長期通院を余儀なくされ、医師志望を固めた。
3浪の末、徳島大医学部に入学。同大を卒業し、84年に研修医として配属された徳島大病院での経験が原点となった。初めて担当した重症の心臓病を患う乳児が懸命の治療も及ばず亡くなった。無力さを感じて「あの時の母親の顔は忘れない。今も宿題になっている」と振り返る。
「子どもたちの記憶に残る医者になりたい」。診察室では患者の手を取り、病弱だった幼少時代の闘病体験を語る。「自分がそうだったように患者の中から医療の道を目指す子どもが出てくれれば幸せ」としみじみ話す。
医大生の長女(25)、歯学部に通う長男(21)は既に親元を離れ、高松市で妻(52)次男(19)と3人暮らし。5歳まで過ごした牟岐町の自然を「心の原風景」と古里に思いを巡らせ「大事にしてくれた祖母の墓参りをしたい」と目を潤ませた。
あきた・ひろし 牟岐町出身。城東小、城東中、城南高を経て1984年に徳島大医学部卒業。小児科専門医として、国立療養所香川小児病院、徳島大病院に勤務。高松赤十字病院第1小児科部長を経て2007年6月にあきた小児科クリニックを開院。医学博士。高松市在住。59歳。