小紙文化面の「徳島俳壇」に気になる一句を見つけた。季節は少々さかのぼる。<巻き戻しきかぬ失言春惜しむ>岡久玲子

 選者の谷中隆子さんは「自分の失言は、わが心に残り悪夢とさえ思う」と共感を寄せ、こう選評を継いだ。「言葉は刃よりも人の心を刺すもの。気をつけたい」

 自民党の杉田水脈衆院議員が月刊誌に載せた寄稿文は、刃よりも鋭く、多くの当事者に突き刺さった。だからこうも大きな騒ぎになっているのだろう。<子どもを作らない、つまり『生産性』がない><そこに税金を投入することが、果たしていいのか>。言われた性的少数者(LGBT)の抗議行動は、4千人に膨れ上がった

 同性愛などへの考え方は、人それぞれ千差万別あろう。けれど、国会議員が市井の人の尊厳を公に非難するなど、もっての外である。その後、杉田氏の説明はなく、沈黙を続けているから、失言だと悔やんでいるかどうかは分からない

 もっとも、言葉の刃が逆方向にも向いていることは気掛かりではある。いまや会員制交流サイト(SNS)で何百、何千という切っ先が瞬く間に向けられる。不快な言葉も頻出し、殺害予告まであったというから穏やかではない

 「言の葉」ならぬ「言の刃」が飛び交う。殺伐としていないか。猛暑は続いているというのに、なぜだか寒気がする。