地域ごとの人口変動や交通渋滞といった社会現象を解明するには、背景にある多様な要因を手際よく解析し、モデル化する必要がある。そこで頼りになるのが、数理科学と呼ばれる研究分野だ。最先端の数学理論やIT技術を駆使し、膨大な実験データを正確かつ客観的に処理できる手法を追究している。
「数学は、日本の経済成長に不可欠な科学技術イノベーションの基礎になるもの。身近な課題を解決する上でも応用がきくことから専門分野に選びました。もちろん、小さいころから数学が好きだったこともあります」
現在、東大大学院の医学系研究科などと共同で手掛けているのが、遺伝子の転写メカニズムの解明だ。
「生物はDNAから遺伝情報をコピーし、新たな細胞を作り続けることで生命を維持している。その転写に何らかの異常が起きると、がんや糖尿病などの病気につながると考えられています」。そこで転写メカニズムの研究を通して、異常な状態を正常に戻す新薬の開発を進めている。
転写の研究は、エボラ出血熱などウイルス性疾患の治療薬開発でも世界的に注目を集めている。がんや糖尿病の根本的な治療につながる可能性もあるだけに「数学と生物医学を融合させた研究を加速させることで、転写創薬のような産業のイノベーションを起こしたい」と意気込む。
そうした取り組みは、新たな成長産業の創出で若者の雇用を確保したい地方にとっても魅力的なものだ。
「急速に進行する人口減や都市部への人口流出を食い止めるためにも、徳島の得意分野である医学と工学、農学を融合させた研究開発を、本格的な特区構想の中で推進してはどうでしょうか。私も、研究を通じて応援できればと思います」。
おおた・よしひろ 鳴門市出身。城南高校、東京工業大工学部卒。東京大大学院理学系研究科修了。IBM東京基礎研究所研究員、日立製作所中央研究所研究員、東京大先端科学技術研究センター特任助教などを経て、2013年4月から現職。東京都港区在住。43歳。