消化器系の中でも肝胆膵(すい)にできたがんの治療は難物だ。わずかな条件の差で手術できるかどうかが決まることも多く、各地の病院で「切除は難しい」と診断されるケースは少なくない。そうした患者を全国から迎え入れ、全力で治療に当たる日々を送る。

 当然ながら、血管などが複雑に走っている肝胆膵がんの手術には、医師一人一人の専門知識や経験、技術が問われる。それでも「難治がんであるからこそ、治療法を開発する意義があり、手術が高難度であるからこそ、やりがいがある」と話し「今後も診断や治療成績を向上させ、肝胆膵がんを難治がんでなくしていきたい」と頼もしい。

 複数の病院勤務を経て入った東大大学院では、移植免疫研究の一環でマウスを使った心移植に打ち込み、修練を積んだ。「振り返れば、高校と大学病院、大学院時代の8年間は、本当にがむしゃらにやりましたね」。そうした努力が、日本を代表するがん専門病院で手術に明け暮れる毎日を支え、掲げた目標の実現に向かわせている。

 目前に迫る超高齢社会に備え「全国規模で医療の体制を再構築する必要がある」とも指摘する。「地方の外科医不足は深刻で、ここ数年、外科医が生まれていない地域もある。都市と地方の格差が広がる中、医療の質を確保していくためには、外科手術のような高度医療はがん拠点病院で行うといった集約化を進めないと」

 徳島を離れて32年が経過した。「たまに帰省すると映画館がなくなっているなど、町に活気が感じられなくなっている」と話し、人口減が進む古里の将来を気に掛ける。今後の町づくりでは「東京の郊外にあるようなありきたりの町ではなく、ゆったりとした徳島らしさを失わない町を目指してほしいですね」。

 さいうら・あきお 徳島市出身。徳島大(現鳴門教育大)付属小、中学校、灘高校、東京大医学部卒。東大病院、東京都立墨東病院などを経て、東大医学部大学院修了。2003年に癌研病院(現がん研有明病院)に入り、08年5月から現職。東京都文京区在住。47歳。