徳島県小児科医会 日浦恭一(徳島新聞朝刊 満1歳にて掲載)

トキソプラズマは寄生虫の一種で人と動物に共通の感染症です。妊娠中の女性に感染すると死産や流産の原因になり、胎児に感染して先天性トキソプラズマ症が発生します。

トキソプラズマ感染症は比較的少ない疾患ですが、確実に増加していると言われます。この感染症が増加する要因にはグルメ嗜好による汚染肉の生食や海外旅行、ペット(ネコ)ブームなどがあると言われます。

トキソプラズマはネコを最終宿主とする寄生虫で、ネズミやブタを中間宿主にしています。従ってブタ肉を十分加熱せずに食べた時や、ネコの糞便中に存在するトキソプラズマが経口的に感染することで発病します。

トキソプラズマが感染しても成人ではほとんどが無症状に終わりますが、妊婦に感染すると胎盤を通して胎児に感染し、胎児死亡や流産の原因になります。死亡しなかった児もトキソプラズマに感染して先天性トキソプラズマ感染症を発病します。

先天性トキソプラズマ感染症には網脈絡膜炎、小眼球症、斜視、水頭症、小脳症、精神・運動障害、脳内石灰化像、肝脾腫脹、黄疸、リンパ節腫脹、発疹、発熱など多彩な症状が見られます。これらの症状は新生児期に明らかなものばかりでなく、けいれんや精神・運動発達遅延などは乳幼児期以後に発病することがあります。

トキソプラズマ感染症は予防が大切です。特に妊婦はネコとの接触を避けます。汚染された土や砂を触る場合にはゴム手袋を着用し、作業後には手洗いを徹底します。ブタ肉の生食を避けること、調理中に生肉に触れた手指で口や目を触らないことも大切です。