湯船に体を沈めたときの心地よさは言葉にならない=神戸市北区有馬町、竹取亭円山

 うっすらと湯気が立ち上る露天風呂。新緑の合間から降り注ぐ日差しが茶褐色の湯に反射し、まばゆく輝く。このさまを「金泉(きんせん)」と呼んだ、昔の人のみやびな心を思う。

 関西の奥座敷として知られる神戸市北区の有馬温泉は、日本書紀にも記述があり?日本三古湯?の一つに数えられる。古くは豊臣秀吉をはじめ、谷崎潤一郎ら多くの著名人が愛した名湯の誉れは世界にとどろき、今や多くの外国人観光客が温泉街の路地を埋める。

 有馬には金泉と、透明度の高い銀泉がある。泉源三十数カ所のうち、金泉は約10カ所。湧出時は無色透明に近いが、豊富に含まれる鉄分が空気に触れた途端、酸化して独特の色合いになる。海水より塩分濃度が高く、保温や保湿効果が優れているとされる。

 旅館「竹取亭円山」の下浦康伸会長(69)は「沈殿物でパイプが詰まりやすく、維持管理が大変。それでも、さまざまな効能に加え、日々微妙に変化する色も楽しめる」と、くめども尽きぬ金泉の魅力を語った。(写真と文・辰巳直之=神戸新聞)