菩提樹(ぼだいじゅ)の木陰、ベンチに腰を下ろすと、正面に本堂、左手には檜皮葺(ひわだぶき)の聖天堂、その背後のうっそうとした森から岩山が屏風(びょうぶ)のように立ち上がる。眼前に現れるのは隙のない風景だ

 高松市の85番札所・八栗寺。五剣山の山腹にある。歩いてもそうかからないが、迷わずケーブルカーを使った。乗り味も懐かしい年代物の車両とはいえ、山上まで一気。この暑さ、選択に誤りなし

 夏の日の山中の木陰のベンチは、期待以上に気持ちがいい。遠くで近くで鳴くセミの、いろいろな声が混じり合い、雨のように降り注ぐ。<森の蝉(せみ)涼しき声やあつき声>川井乙州(おとくに)

 はやツクツクボウシの声も。夏休みも終わりになって「宿題したかー」とせかされているようで、子どもの頃は好きではなかったけれど、彼も彼、地上での短い一生を懸命に生きている。ここは寺の内、菩提樹の下

 <蝉時雨寺境を過ぐる余り風>大谷句仏(くぶつ)。心地いい涼風を「極楽の余り風」という。ひとつ昼寝でも、と思ったがやめた。樹木の手入れか、大きな水筒で水分を補給しつつ、働く人がいた。さすがに気が引けた

 災害級といわれる今年の暑さ。徳島県内でも亡くなった人がいる。冷房を使わず室内にいたり、農作業中などに倒れたりするケースが目立つそうである。もうすぐ立秋とはいえ、酷暑はまだまだ。油断ならない。