徳島県小児科医会 日浦恭一(徳島新聞朝刊 満1歳にて掲載)
抗菌薬は細菌感染症に対する治療薬です。細菌感染症の治療は抗菌薬の発達とともに進歩してきましたが、抗菌薬の使用が増えるに従って細菌は薬剤に対する感受性を失い、耐性を獲得してきました。これまでは耐性菌の出現の度に新しい抗菌薬を開発して対応してきました。しかし最近の新しい抗菌薬開発のペースは20年前に比べて半分くらいに減少しています。特に外来で小児に使用できる新しい抗菌薬はほとんどない状態です。
小児科外来で抗菌薬治療の対象となる原因細菌には溶連菌、ブドウ球菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌などがあります。
この中で溶連菌だけは抗菌薬に対する耐性菌の心配はありません。古いタイプのペニシリンでも十分に効果があります。
ブドウ球菌にはメチシリン耐性ブドウ球菌MRSAと言う耐性ブドウ菌用の抗菌薬メチシリンに耐性を示す細菌が存在します。ただブドウ球菌MRSAが問題になるのは手術後や抵抗力の落ちた場合で、外来治療で問題になるのは皮膚感染症くらいです。
耐性菌が最も問題になるのは肺炎球菌とインフルエンザ菌です。この二種類の細菌はともに呼吸器系や耳鼻科領域の感染症の原因菌として多く見られ、耐性菌のために使用可能な抗菌薬が少ないのが現状です。髄膜炎や菌血症など重症感染症に対しては予防接種で対応しますが、ヒブや肺炎球菌の予防接種ですべての菌種に対応できる訳ではありません。
耐性菌を作らないためにはウィルス疾患や軽症の感染症に対して抗菌薬を使わないことも大切です。