瀬戸内寂聴さんについては、比較的よく理解しているつもりだった。しかし、連載「生誕100年 瀬戸内寂聴物語」を書くために著作や資料を改めて読むうちに、知らないことだらけだと痛感させられた。

 6月、「徳島ラジオ商事件編」を書いている時に、衝撃を受けた言葉がある。冤(えん)罪(ざい)を生んだ背景に女性差別が大きく影響しているというものだ。冨士茂子さんは、入籍していない妻だから、過去にカフェのマダムだったから、夫殺しという無実の罪を着せられてしまったと寂聴さんは言う。

 この「女性差別と闘う」ことが、寂聴さんの文学作品や社会運動のテーマと大きく関係している。「美は乱調にあり」「諧調(かいちょう)は偽りなり」などで描いた「青鞜」の時代の女性たちもそうだっただろう。古い因習や男性中心の体制にあらがう新しい女性たちへの共感は、寂聴さんの心の深部に根付いていたに違いない…