徳島県小児科医会 日浦恭一(徳島新聞朝刊 満1歳にて掲載)
鉄欠乏性貧血になると酸素供給不足による症状として易疲労感やめまい、頭痛、息切れなどが見られ、赤血球量の減少によって顔色不良や立ちくらみ、浮腫などが見られます。貧血があると、その症状を代償するために心拍出量の増加が起こり動悸、多呼吸、頻脈、心雑音、微熱などが現れます。
さらに鉄は中枢神経系に働く酵素の重要な構成要素ですから、鉄が不足すると貧血の他に発達・成長の障害、易刺激性の亢進、注意力の低下、情緒障害、学習障害などが見られることがあります。
このように鉄は子どもが元気に活動し、成長・発達することに欠かすことの出来ない物質です。
乳児期早期には妊娠中に母親から移行した鉄を利用しますから鉄が不足することはありません。しかし母乳に含まれる鉄の量は人工乳に比べると少なく、完全母乳栄養児ではつねに生理的に貧血状態にあります。特に離乳食の開始が遅れる場合や食物アレルギーなどで除去食を行っている場合には注意が必要です。
からだが急速に大きくなる時期には鉄の必要量も増加しますから、離乳食を適切に進めることで摂取する栄養の量を増やすことが大切です。
鉄が母親から胎児に移行するのは妊娠の後半3か月です。従って早産児や低出生体重児では鉄の移行が十分でなく、生後4~5か月頃には鉄欠乏状態になります。正期産児でも離乳食が進んでいない児や早く牛乳へ切り替えた児では必要な鉄が摂取できずに鉄欠乏性貧血になる危険性が高くなります。