徳島県小児科医会 日浦恭一(徳島新聞朝刊 満1歳にて掲載)

子どもの貧血はそれ程めずらしい疾患ではありません。外来でたまたま行った血液検査の結果、貧血が見つかることもあります。貧血による明らかな症状が現れることはそれ程多くありませんが、鉄欠乏状態が隠れている危険性は誰にでもあります。

子どもの鉄欠乏性貧血が起こりやすい時期は乳児期後半と思春期です。この時期はともに身体が急速に大きくなって内臓や筋肉に貯える鉄および循環血液量が増えて、その材料の鉄必要量が増える時期です。さらに身体活動が旺盛になり運動や発汗に伴って鉄の消費量も増えることで、鉄の需要量が増加します。また思春期の女子では月経の開始によって鉄の喪失量が増えます。

乳児期後半の貧血の原因には、離乳食開始の遅れや不適切な離乳食や偏食で食事から十分な鉄が摂取できないこと、感染症に罹患しやすくなって発熱することによって鉄の消費量が増加することが考えられます。

鉄の必要量や消費量が増加するのに対してそれに見合って鉄の摂取量が増えなければ、貯蔵鉄や血清鉄が減少して鉄欠乏状態になります。鉄欠乏状態になったところに激しい運動や感染症が加わると貧血が明らかになります。

健康な子どもに急に貧血の症状が現れた場合には消化管出血などの急激に血液を喪失する疾患の存在を疑います。子どもの貧血には鉄欠乏性貧血以外にも溶血性貧血や再生不良性貧血などの血液疾患があり、さらに悪性疾患なども隠れていることがありますから注意が必要です。