厳しい環境に暮らす猫たちは後を絶たない。捨て猫や繁殖し過ぎて飼いきれなくなる「多頭飼育崩壊」は一向に減らず、背景には猫の繁殖力の高さに加え、社会的な問題も垣間見える。無秩序な繁殖を防ぐため、不妊・去勢手術を施すTNR活動に取り組む民間団体「あわねこ保育園」(徳島市)に密着し、県内の多頭飼育崩壊現場を訪ねた。

部屋にはふん尿の臭いが充満する

 部屋には鼻をつくふん尿の臭いが漂い、爪とぎの跡が至る所にある。中に入ると12匹の猫があちこちから現れた。今回訪れたのは1人暮らしの70代女性宅。女性は「最初の頃は1、2匹だったが、いつの間にか増えて手がつけられなくなった」と言う。

 猫たちは不妊・去勢手術をしておらず、餌をもらいながら屋外に出て地域を自由に行き来する中、飼い主が望まない繁殖を繰り返していった。捕獲に当たった保育園のメンバーは「以前は今より猫の数が多かったと近所の人から聞いた。(このような状況になったのは)この子たちが初めてじゃない」と推測する。

 女性は「旦那に先立たれて心細く、猫が来るのが唯一の楽しみだった」とつぶやいた。孤独からくる要因もあるように感じた。

避妊・去勢手術の様子=徳島市のはち動物病院

 女性の娘からあわねこ保育園に相談があり、娘が費用を負担してTNRを行うことになった。捕獲後は徳島市内の動物病院に搬送され、避妊・去勢手術を施した上で、元いた場所に戻された。「摘出された子宮に小さな命があり、それを見た時はぞっとした。生まれてくるはずだった子たちは何も悪くないのに」とメンバーは悲しんだ。

シェルターには数多くの猫が共同生活している=あわねこ保育園

 「民間団体への依頼が増えて(猫を保護する)シェルターはあふれかえっている」。あわねこ保育園園長の井上智美さん(48)はため息をつく。井上さんによると、新型コロナウイルス禍で癒やしを求めてペットを飼う人が増え、一方で面倒を見切れなくなるケースも増加。「県動物愛護管理センターは最後まで責任を持って飼育するように猫の引き取りを拒む」ことから、各地でTNRや保護活動を行う民間団体の負担が増しているという。

 県内で特に目立っているのは、高齢者による「不適正飼育」。避妊や去勢をせずに屋外で飼うことを指し、昔は一般的な飼育の仕方だったが今では見直されている。知らないうちに近所のパートナーと出会って子どもを産み、たちまち数が増えてしまうからだ。

すさまじい繁殖能力を持つ猫

 猫は生後半年程度で子どもを産めるようになり、一回の交尾でほぼ100%妊娠する。妊娠期間約2カ月で平均して一度に5、6匹を産む。その繁殖能力はすさまじく、オスとメスが1匹ずついれば1年余りで70~100匹になることもある。

 あわねこ保育園は、2021年12月~2022年10月の11カ月間で757匹にTNRを行った。譲渡先が決まった保護猫は339頭。また、支援に出向く多頭飼育崩壊現場は年間80件以上もあり、全ての猫に不妊・去勢手術をするには限界があるため、保育園は頭を抱える。

 県動物愛護管理センターによると、21年度の猫の殺処分数は50件、多頭飼育崩壊現場は8件。殺処分数が千匹を超えていた10年以上前と比べれば減少しているように見えるが、民間団体がTNRや譲渡を進め、殺処分場に行くのを必死で食い止めている。

 避妊や去勢をせず無秩序に飼えば、すぐに増えて餌代がかさみ、自宅だけでなく周囲にもふん尿被害が及ぶなど人的な問題も生じる。結果として、猫にも飼い主にも不幸を招く。

 井上さんは「TNR活動を広めて、望まれない命を増やさないようにする。ペットショップで買うのではなく、保護猫を選ぶのが当たり前の世の中になってほしい」と呼びかけた。(富樫陸)