徳島県小児科医会 日浦恭一(徳島新聞朝刊 満1歳にて掲載)

ブドウ球菌は人の生活環境に広く分布する細菌であるために、様々な病気を引き起こす可能性があります。体力や抵抗力が低下した時、手術やカテーテルの留置、外傷など生体にとって不利な条件が加わるとブドウ球菌による感染症発病の危険性が高くなります。

ブドウ球菌による感染症には菌血症や心内膜炎などの全身感染症、骨髄炎や肺炎、皮膚感染症などの化膿性疾患に加えて、細菌の毒素によって発生する疾患があります。

毒素による疾患の代表が食中毒です。ブドウ球菌による食中毒は、食品に付着した菌が産生したエンテロトキシンと言う毒素を摂取した後2~3時間で嘔気・嘔吐、腹痛、下痢などの消化器症状が見られますが、発熱はありません。食品からブドウ球菌は検出されますが、患者さんの糞便から菌が検出されることはほとんどありません。症状は体外へ毒素が排出されると共に2~3日で治まります。

食中毒を起こした人の体内にはブドウ球菌は居ませんから、その治療に抗菌剤を使用する必要ありません。

ブドウ球菌の多くは抗菌剤に耐性を示します。ペニシリンが使用され始めた1940年代にはすでにペニシリン耐性菌が出現しています。1960年には耐性ブドウ球菌用の薬剤メチシリンが開発されましたが、その翌年にはメチシリンに耐性を獲得したブドウ球菌MRSAが認められています。

1980年代にはセフェム系の抗菌剤が多く使用されて、MRSAが多くなり、大きな社会問題となりました。

その後、多くの耐性ブドウ球菌用の抗菌剤が開発されましたが、次々に耐性菌が出現していて、ブドウ球菌と抗菌剤開発の戦いはまだまだ終わることなく続いています。