徳島県小児科医会 日浦恭一(徳島新聞朝刊 満1歳にて掲載)

おたふくかぜには特別な治療法がありませんから予防が大切です。しかしその予防接種は任意接種です。おたふくかぜは麻しん、風しん、水痘と並んで代表的な伝染性疾患です。麻しん、風しん、水痘ワクチンは定期接種になっているのに、おたふくかぜワクチンは何故定期接種になっていないのでしょうか。

現在、世界の多くの国では麻しん・風しん・おたふくかぜの3種類が入ったMMRか、これに水痘を加えたMMRVワクチンが定期接種とされています。日本でも過去におたふくかぜの入ったMMRワクチンが定期接種として採用されたことがありました。1989年4月にMMRが定期接種として開始されました。しかしMMR開始後間もなくワクチンによる無菌性髄膜炎が多く発生しました。その結果、MMRの定期接種は中止されるに至りました。

元々おたふくかぜは無菌性髄膜炎を合併しやすいウィルスです。後にこの時、使用されたおたふくかぜワクチンに野生のおたふくかぜウィルスが混じっていたことが判明しました。その結果、髄膜炎の発生頻度が増加したのです。

この事件以来、日本ではおたふくかぜワクチンは副作用が強いとの拒否反応が強く、外国のようにMMRワクチンの定期接種化が進みませんでした。

現在、日本では麻しん・風しん混合ワクチンと別におたふくかぜ単独ワクチンを使用しています。単独のおたふくかぜワクチンでも無菌性髄膜炎が発生する可能性はありますが、自然に罹った場合に比べるとその頻度ははるかに小さいものです。早期におたふくかぜワクチンを定期接種にしてもらいたいものです。