自社製の飛行機とともに。2022年8月に福島県で行われたF3A RC曲技の日本選手権大会では8位に輝いた。

自社製の飛行機とともに。2022年8月に福島県で行われたF3A RC曲技の日本選手権大会では8位に輝いた。

3Dソフトを用いて設計図を製作する。飛行機は、競技のルール改定を先取りして2~3年に一度のペースでモデルチェンジ。常に改良を重ねている。

3Dソフトを用いて設計図を製作する。飛行機は、競技のルール改定を先取りして2~3年に一度のペースでモデルチェンジ。常に改良を重ねている。

「飛行機は3Dの世界。天候や風向きに左右されるので、いつも同じようには飛ばない。今度こそ、今度こそと続けていたらここまで来ていました。いまだに100点満点はできませんね」。

「飛行機は3Dの世界。天候や風向きに左右されるので、いつも同じようには飛ばない。今度こそ、今度こそと続けていたらここまで来ていました。いまだに100点満点はできませんね」。

 藍住と板野の町境近く、春にんじんのビニールハウスが並び建つ住宅街。一般的な住宅よりふた回りほど大きいクリーム色の建物に「フライトホビー」と書かれた看板が控えめに掛かる。実はここ、国内随一の模型飛行機メーカー。2022年で創業40年、2006年から現在の場所に工房を構える。

 代表の油谷守さん(58・徳島市出身)と模型との出会いは小学生の頃。当時流行していたプラモデルやラジコンカーにのめり込み、徳島市佐古にあった模型店に足繁く通った。しばらく経ったある日、店主が引退して店を畳むことに。「模型の部品を調達する場所がなくなるのは困る」という常連客の声を聞いた油谷さん。当時18歳、高校3年生ながら後継に手を挙げ「油谷ラジコン」として店を引き継いだ。

 引き継いだ当初は、前身の模型店を踏襲し、主に飛行機模型の部品を仕入れて販売していた。しかし、時代とともにインターネット通販が台頭し、徐々に売上が減少。20年ほど前から模型飛行機の製作をスタートした。設計ソフトの操作やパーツの作り方などは、インターネットを駆使してすべて独学で修得。「パソコンとインターネットの普及が大きな転換点でしたね」としみじみ振り返る。

 機体が縦横無尽に宙を舞い、アクロバティックな技で魅せる曲技飛行。現在、フライトホビーの軸となっているのは、この曲技専用の模型飛行機や組立キットの製作だ。電動モーターや無線機といったパーツ以外はすべて自社製造。ボディや翼の主な素材であり「世界一軽い木材」といわれるバルサは、パプアニューギニアやインドネシアなどの産地から直輸入し、工房内で製材を行う。製造を始めた当時は他にもいくつか曲技専用機の国内メーカーがあったが、現存するのはフライトホビーただ1軒のみという。比較的安価な外国製のものも流通しているが、フットワークの軽さやアフターフォローの確かさ、クオリティの高さで、国内の愛好家から圧倒的な支持を集める。

 日々の製造業務の傍ら「F3A RC曲技」の現役選手として大会出場も続ける。曲技飛行のテクニックを競う採点方式の部門で「スケートでいえばフィギュアスケートのようなもの」という。「昔は世界一を目指していましたが、今は製造者として『いいものを作っている』という証明のために出ている。製造者兼操縦者であることで、実際に競技の場で飛ばさないと分からない部分を設計に活かせる、という面もあります」。飛ばしている人が設計している安心感も、フライトホビーが支持されている大きな理由だ。「競技用飛行機の規格は全世界共通。円安の影響で海外からの注文も増えています」。

 「ないものを作るのが得意」というものづくりの魂、そして「できることなら何でもやりますよ」という姿勢。油谷さんのもとにはさまざまなオファーが舞い込む。「オーダーメイドで大手民間企業や大学の実験装置を作ったり、最近ではドローンを設計したり。飛行機だけじゃなくいろんなものを手掛けています。40年前に模型部品のショップから始まって、時代に合わせてだんだんと変化してきた。これからも常に変わっていきます」。柔和な笑顔の奥に、町工場の矜持がにじんだ。

フライトホビー
徳島県藍住町富吉中新田27-11
088-693-3636
営業時間=9:00~18:00
定休日=日祝休

駐車場:あり
多機能トイレ:なし
Wi-Fi:なし
キッズスペース:なし
創業:1982年