町民らに文化発信の場を提供してきた田川夫妻=美波町西河内の「ギャラリー花筏」

町民らに文化発信の場を提供してきた田川夫妻=美波町西河内の「ギャラリー花筏」

 美波町西河内の元教員田川敬(たかし)さん(77)とトヨミさん(76)夫妻が2015年に開設し、美術作品の展示スペースとして7年間にわたって開放してきた「ギャラリー花筏(はないかだ)」が12日、閉館する。地域の文化発信や交流拠点となっていたが、夫妻の年齢などを理由に幕を下ろす。常連からは惜しむ声が上がっている。

 ギャラリーは15年12月、牟岐町の切り絵作家川邊博正さんの個展に魅了された田川さん夫妻が、自宅近くに所有する空き倉庫を改修してオープンさせた。平屋で約50平方メートルの広さがあり、写真やパッチワーク、イラストなど多い時は月2回ほど町内外のアーティストの作品展を催した。これまでに計70回開き、少なくとも1万人が訪れた。

 しかし、新型コロナウイルス禍による外出自粛の影響で、ここ数年は年に2、3回しか開けなくなっていた。年齢も考慮して引き際を考えていたところ、新たに倉庫を活用したいという人から申し出があり、閉館を決めた。

 開館以来、作家からの利用料も来場者の入場料も取らずに無料で運営してきた。一人でも多くの人に作品に触れてほしいとの思いから、展示作品のレイアウトも田川さん夫妻が試行錯誤しながら考えてきた。敬さんは「まだ(閉めるという)実感はなく、あっという間だった。お金に換えられない大切な出会いがたくさんあった」と振り返る。

 会場は作家や地域住民らでにぎわい、さまざまな出会いが生まれた。開設時からのファンという浜田恭子さん(46)=同町西河内、歌手=は「毎回の展示はもちろん、ここに訪れる人との交流が何よりも楽しかった。長年やってくれた2人には感謝しかない」と名残惜しそうに語った。

 今後は自宅でゆったりと作品鑑賞を楽しみたいという田川さん夫妻。「地域の方の活動を知ることができるなど本当に濃い時間だった。この先も建物が元気になるよう期待している」と目を細めた。