三味線と太鼓と唄。日本の心を表す民謡の世界に飛び込んで半世紀近くになる。芸名は藤本ひでまさ。民謡界大手・藤本流の師範で「ひろみつ会」主宰として、奈良県内で4カ所の教室を開いているほか、津軽三味線も手掛ける。
 
 母の勧めで始めたという民謡に没頭してきた人生と思いきや「それが嫌で嫌で。ずっと辞めてやると思っていました」。とはいえ、「続けられたのは母と阿波踊りのおかげでしょうね」。
 
 この時季、思い浮かぶ光景といえば-。幼いころ踊り明かした夏の夜のこと。上板町の家からトラックに乗り、踊りの輪を探した。演舞場などなく、わずかな場所があれば通りでも、広場でも踊った。「とにかく楽しかった。親に背負われながら聞いた三味線の音が心に刻まれて、最後まで嫌いになれなかった」と振り返る。
 
 生まれは徳島市。父の仕事の都合で転居が多く、上板町から再び徳島市と移り、高校1年の時に大阪へ。その後も転居を繰り返しながら奈良県橿原市に落ち着いた。
 
 三味線を始めたのは21歳のころ。母の篠原ミツヱさん(96)が先に習いだし、半ば強引に同じ道へ引き込まれた。結婚、出産を経ながら腕を磨き、1996年からミツヱさんが開いた会の2代目に就いた。「道に迷っている時には必ず素晴らしい人との出会いがあった。それが何よりの財産」
 
 多くの門下生を育てたが、その数も減ってきた。しかし「教わったものを将来に引き継いでいきたい」との思いは強い。
 
 徳島を離れて長いが、友人は多く、野山を駆け回った上板町での暮らしが心のよりどころ。「阿波踊りを通じて、これからも徳島とつながっていたい。三味線じゃないですよ。踊りたいんです」。
 
 うめもと・まさこ 名西高1年まで徳島で暮らし、精華女子学院高卒。1985年、藤本流師範。津軽三味線成田流家元の成田光義に師事し、津軽三味線も修める。「ひろみつ会」は2016年に設立30周年。奈良県内の阿波踊り連「大仏連」にも加わる。橿原市在住。69歳。