1月20日は二十四節気の「大寒」。しかし、ここ数日は暖かい日が続いている。上勝町では、産直市の店先にフキノトウなどの春を感じさせる食材が並んでいる。冬から春にかけての季節の変わり目は、人も大きく変化が伴う時期である。進学や就職、または転勤や転職など、新しい環境に身を置く人も多いのではないか。「移住」もその変化の一つ。

 上勝町への移住相談件数は、2021年度は94件だった。人口約1400人の町に年間100人近くの方が移住について相談を寄せてくれているのは、数字だけ見ればありがたい。このうち、31人が実際にこの年、上勝へ移住している(全て上勝町の広報紙より)。

 随時寄せられる移住相談に役立てようと、町では移住ポータルサイトを公開した。「上勝パラダイス宣言」と名付けられたサイトで、地元では「カミパラ」と略して呼ばれる。移住の際に知りたい家や仕事、子育てについての情報を確認できるほか、町内の最新情報をブログで読める。

 

 サイトには「上勝町には駅もコンビニもスーパーもありません。でも都会では手に入らない“なにか”があります。ある日、私は気づきました。これこそが人間が求めるパラダイスなんだと。」という文言と町長がアロハシャツを身にまとった写真が掲載されている。「『パラダイス』とはなんとも大きく出たものだな」と最初聞いた時に思ったけれど、町内の人や暮らしについて丁寧に拾い上げていくと、ここで表現される「パラダイス」の意味にたどり着く。

もちろん、移住者もごみを45分別

 移住者はいるものの、町の人口減少には歯止めがかかっていない。国勢調査のグラフを見ても、人口は急速に減少し、高齢化率は年々上がっている。町では「2040年に1000人程度の人口を確保する」ことを目標としているが、厳しい現実が続いている。

 町にとって大事な移住者も、町独自のごみ捨て方法に参加することになる。改めて言うが、上勝町ではごみ収集車が走っていない。自分の家の車に乗せて、町内1カ所の資源回収拠点「ごみステーション」へと持ち込む。そこで、持ち込んだごみを細かく分ける。ステーションでは、45種類に分別できるようたくさんのコンテナ等が並べられている。現場スタッフに確認しながら、自らが仕分ける。ごみは資源として扱われるため、ステーションに持ち込む際にはきれいに洗った上で、乾かすことがルールである。生ごみは自宅で堆肥化する。町営住宅なら共同のコンポスター(畑に穴を掘り、そこに緑色の筒をかぶせて、その中に生ごみを投入していく)、一軒家であれば自宅のコンポスターや電動生ごみ処理器を使う。

わが家のコンポスト。時々中を混ぜたり、場所を変えたりする必要がある

 私自身はこの町で育ち、生活している時間が長いので、ごみ収集車が走っていないことや、ごみを細かく分別すること、生ごみの処理には慣れている。移住してきた人たちは、この仕組みに戸惑う人も多い。特に生ごみは、コンポスターを維持するとなると手間がかかるし、独特なにおいや虫たちと付き合うことになる。これまで焼却ごみにしていた人たちからすれば、慣れるまでに時間がかかりそうだ。

パラダイスはそこに既にあるもの?

 ここ数年ほどは、その手間も承知で移住してくる人がいるように感じている。例えば、生ごみは焼却処理されるよりも堆肥化して土に戻す方が自然だと感じていたり、野菜やお米、みそなどを手作りしたりする。わらで編んだカゴや鍋敷きを大事に使う価値観を持っている。これらを、今の言葉で言えば「サステナブルな暮らし」と捉えているようだ。そして、町内にはそのヒントや先生たちが多い。学べることは多岐にわたる。

 「ゼロ・ウェイストな暮らしをしたい」と移住する人、または視察や見学に訪れた人の中には、大きな期待を抱いている人がいる。この町に来れば、ごみが全く出ない暮らしと、出さないためのシステムが構築され、「ゼロ・ウェイスト・パラダイス」があると。そして多くの場合、実際に暮らし始めると、産直市で野菜がプラスチックパッケージに入って売られている様子を見て絶望する。その絶望は、時には怒りへと変わることがある。「ゼロ・ウェイストな町だと言ったのに!」

経営するカフェではこれまでも野菜を布袋で販売や仕入れができないかと取り組んでみたことがあった

自らつくるゼロ・ウェイストな暮らし

 せっかく訪れてくれた人に対しては、上勝が「完璧」ではなくて申し訳なく思う。上勝は、ゼロ・ウェイストを目指す「過程」にある。そのため、これからこの町で暮らす人には「自らが取り組むことでその過程に参加してほしい」と伝えたい。町の中には、自分なりにゼロ・ウェイストを実践しようと、容器持参で買い物をしたり、生ごみの堆肥化を手軽にするために試行錯誤したりする人たちがいる。自らが創り出す楽しみを知っている、もしくは暮らしていく中で知っていく人にとって、上勝町はもしかすると「パラダイス」なのかもしれない。

東輝実(あずま・てるみ) 1988年生まれ。上勝町出身。関西学院大卒業後、町へ帰郷し、夫らと合同会社RDNDを設立し、カフェ・ポールスターを経営。NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミー事務局長を経て、現在は仲間とともに上勝町で滞在型教育プログラム「INOW(イノウ)」を展開している。

東さんのコラム「Rethink 上勝町のゼロ・ウェイスト」は毎月第3金曜日に公開します。