泳げない。少しでも高く、と2階の窓枠につかまった。それでも、泥水は胸までせり上がってきた。「もうだめだと思った」。西日本豪雨で堤防が決壊し、町の3割近くが浸水した岡山県倉敷市真備町。中野秀子さん(70)が振り返る

 夫の真吾さん(71)は前夜から不在。勤務する総合公園で、夜を徹して避難者の世話をしていた。自宅にいたのは、秀子さんとペットのネコ1匹。心配する夫や娘から携帯に電話やメールが届いたが、やがてつながらなくなった

 夜が明けると一面、茶色の海。20軒ほどの住宅団地、取り残された人は少なくなかった。水にのまれかけて、助けを求めるお年寄りも。見かねた隣家の40代の男性が飛び込み、次々屋根に上げた

 隣近所で励まし合って救助を待った。水の中、首だけ出して5時間。もし反対側の、隣人が見えない窓際にいたら、気力がなえていたかもしれない

 3日後、自宅に戻ると、押し入れの奥の棚で愛猫が生きていた。喜びもつかの間、近くの平屋の住宅で、夫の知人が亡くなったことを知った

 真備に家を構えて45年。災害とは無縁と信じていた。いけない、と思った時には、もう身動きのできない状態だった。だから教訓として伝えたい。「誰かの指示を待っていたら遅い。とにかく早く避難することに尽きる」。豪雨から、きょうで1カ月。