西日本豪雨では各地で記録的な降水量となり、広島、岡山、愛媛の各県などで200人以上が犠牲となった。徳島県内で死傷者が出なかったのは、雨量のピーク時に雨雲が1カ所に長時間停滞しなかったことや、土砂災害が住宅密集地で発生しなかったことなどが要因とみられている。専門家は「今回は偶然が重なっただけ」と口をそろえ、改めて備えの大切さを訴えている。

 徳島地方気象台によると、梅雨前線が四国地方に長期間とどまり、雨量がピークだった7月6日未明から早朝にかけて那賀町や海陽町など県南部を中心に猛烈な雨が降った。午前4時までの3時間雨量は那賀町木頭出原で135・5ミリ。台風7号接近に伴う3、4両日の大雨で県南部の土壌は多量の雨水を含み、広範囲で土砂災害が起こる可能性があった。

 しかし、6日午前8時半ごろから、北東方向だった風向きが少しずつ北寄りに変わり、雨雲は三好市方面へ移動。このため、局地的に雨が降った同市山城町などの山間集落で土砂崩れが頻発したものの、三好市より東側では雨がそれほど強まらなかった。

 徳島大環境防災研究センターの中野晋教授は「少しでも気象条件が違っていれば土砂災害が多発し、被害はより深刻になっていただろう。豪雨時は気象情報をこまめに確認し、安全に配慮してほしい」と呼び掛ける。

 岡山県倉敷市では、堤防の決壊などによって河川の水があふれ出る「外水氾濫」で大規模な浸水被害に見舞われた。徳島県内ではこうした大規模な浸水被害がなかったことも、人的被害を免れた一因に挙げられている。

 徳島河川国道事務所によると、主に高知県側の吉野川上流部で6月28日~7月8日の累計雨量が千ミリを超える地点が相次いだ。池田観測所(三好市)では6日午後6時ごろから7日午後2時ごろまでの20時間にわたり、無堤部の氾濫危険水位(8メートル)を超過。7日午前1時50分には最高水位が8・78メートルに達したが、家屋の浸水被害はなかった。

 下流側は雨量が比較的少なく、岩津観測所(阿波市)での最高水位は7日午前4時時点の6・3メートル。無堤部の氾濫危険水位(6・8メートル)は上回らず、堤防の安全性が保たれる計画高水位(約13メートル)の半分以下だった。

 同事務所の池添好巨(よしきよ)副所長は「被害はいつ起こってもおかしくない。行政から避難情報が出されたら迅速に避難するなど水害への心構えを常に持ってほしい」と話している。