食べては吐き出してしまう

 【質問】60代男性です。約2年前、事故の影響で外傷性くも膜下出血となり、頸椎(けいつい)にもダメージを受けました。右手が動かしにくく、発声も困難ですが、今は歯磨きや洗顔などは自分でできます。しかし、食べたい気持ちはあるのに喉が開いてそしゃくや飲み込みができず、毎日何かを食べては吐き出してしまいます。どうにかして食べられる方法を探しています。良い方法はあるでしょうか? また、手術で何とかなるのでしょうか?
 
 阿南共栄病院 耳鼻咽喉科(阿南市羽ノ浦町)
 陣内自治(おさむ)部長
 
 どんなタイプか評価を

 【答え】飲み込みのことを医学では嚥下(えんげ)といい、飲み込みにくい状態のことを嚥下障害といいます。外傷をきっかけに嚥下障害になり、2年間も食べることに困っているとのこと。いくつか考えられる嚥下障害のタイプに関して、どうにかして食べられる方法の可能性を説明していきます。
 
 食べたい気持ちはあるのに喉が開いてそしゃくや飲み込みができないということですが、この原因が「失行(しっこう)」という病態であれば、リハビリ治療が中心になります。失行とは、簡単にいうと脳が嚥下という一連の行動をできなくなっている状態です。
 
 リハビリには根気を要しますが、口腔(こうくう)内をスプーンで触るなどしてそしゃくや嚥下のきっかけをつくることで、口から食べることができるようになる可能性はあります。失行の場合は脳の問題ですので、手術治療の効果はありません。他方、筋肉の動きが問題になる場合には手術治療で改善できる場合があります。
 
 嚥下障害のうち、最も多いのは飲み込む力が弱くなった状態です。嚥下に関わる神経のまひのほか、外傷や手術による構造上の問題が原因であることがほとんどです。リハビリで回復する方も多いのですが、2年も経過して飲み込めないのであれば、弱い力でも飲み込みやすくする治療から始めます。
 
 弱い力で食道へ送り込めるように、まずは食道の入り口を広げる「バルーン法」というリハビリ方法が適応になります。練習にはこつが必要ですので、言語聴覚士がいる病院で受けることをお勧めします。
 
 効果が得られないときには、食道の入り口の筋肉である輪状咽頭筋(りんじょういんとうきん)を切って広げる手術方法「輪状咽頭筋切断術」があります。何度飲み込んでもずっと喉に食事や唾液がたまっているような症状の方に効く場合があります。しかし、広げるだけではむせてしまう方もおり、この手術方法も万能ではありません。
 
 発声も困難とのことですが、失語なのか、喉頭まひなのか、まひ性構音障害なのかにより、病態が異なります。失語は脳の障害で、喉の筋肉は正常です。喉頭まひは声帯を動かす神経がまひした場合をいい、まひ性構音障害は舌や口唇を動かす神経のまひです。
 
 発声困難の原因にもよりますが、飲み込みができない症状との関連を詳しく調べて治療方法を検討することが必要です。
 
 嚥下障害に対する手術治療とリハビリによって、食べることができるようになるとは安易に言えませんが、可能性は残されています。嚥下治療を検討されている患者さんであれば、まず嚥下機能を検査できる施設を受診して相談してください。
 
 内視鏡でリアルタイムに喉をみる嚥下内視鏡検査やエックス線透視でみる嚥下造影検査を受け、どのようなタイプの嚥下障害であるか正しく評価してもらい、治療方法を相談することをお勧めします。