ピアノを指導して半世紀近く。閑静な住宅街にある教室に、未就学児や受験生、ピアニストの卵などが足しげく通ってくる。ピアノ講師を教えることも少なくない。近隣ばかりでなく、熊本県や愛媛県などからも指導を受けにやって来る。
「生まれ変わってもピアノの先生になりたいですね」
石井町の生家にはオルガンがあり、自然と鍵盤楽器に触れ、親しんできた。ピアノを学び始めたのは小学生になってから。結婚して大阪に移った後も「ピアノを学びたい」との思いが募り、東京の国立音大まで通って、腕を磨いた。
ピアノを練習していると、近所の子どもたちが「私にも教えて」と集まりだし、教室を開くようになった。「一生懸命教えれば生徒が応えてくれる。そこにやりがいを感じます」
指導者としての喜びに魅了され、全国のピアノ指導者でつくる全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)に加わって実績を重ねた。教え子にはポーランドのショパン国際ピアノコンクールで入賞した関本昌平さんら著名なピアニストも多い。コンクールの審査員や全国各地で開かれるセミナーの講師も務め、多忙な日々を過ごす。
「ダンスするように」「悲しくても泣けないときのような気持ちで」-。生徒たちにこう言葉を掛ける。「タッチの違いでいろんな音色が出るのがピアノ。豊富な言葉がけで驚くような音が出てくる」からだ。自らは「生徒の体を借り、常に勉強している気持ちです」。
定期的に帰省するものの、若くして家を出たため古里の記憶は乏しい。「ピアノを通じて全国各地に行かせてもらったが、今行きたいと思っているのは徳島。鳴門、祖谷、眉山…。時間を見つけて観光するつもりです」。
いながき・ちかこ 石井町出身。名西高、徳島文理大卒。ピティナ・ピアノコンペティション金賞、神戸国際コンクール最優秀賞など受賞。ピティナ評議員、宝塚支部長などを務め、高い指導実績を誇る。兵庫県川西市在住、69歳。