鳴門の渦潮が間近で見られる「うずしお観潮船」。船上で働くスタッフの一人、鈴木海羽(みう)さん(22)は静岡県の茶畑が広がる山あいの町の出身です。名前に「海」が付いているということは、両親が海に関わる仕事をしているのか? なぜ故郷から遠く離れた鳴門での就職を決めたのか? 気になることを聞いてみました。

 ―まず、名前について教えてください。「海」の字が入っているのはなぜ?

 妹が2人いて、彼女たちの名前にも「海」の字が入っています。父は消防士、母は調理師。海と関わる仕事をしてるわけじゃないんです。生まれ育ったのも、海の近くではなく、山と茶畑が広がる人口6千人ぐらいの川根本町という小さな町。両親は子どもたちの名前に「海のように広い心を持ってほしい」という願いを込めたそうです。

 でも、小さい頃から海に憧れていました。名前の影響もあるし、山に囲まれて育ったこともあって。「海の近くを通るだけでうれしい!」という感じでした。

 水族館もすごく好きで、よく家族旅行で連れて行ってもらいました。知ってますか、サメがいる水槽って結構な確率で「歯」が底に落ちてるんです。サメの歯ってどんどん生え替わるんですよ。水槽の掃除をしている職員さんに頼んで歯をもらったこともあります。

 ―なるほど、サメの歯ってそんな仕組みなんですね...。その後、どんな進路を選びましたか?

 小中は町内の学校に通いました。小学校の同級生は12人しかいなくて、出身校は廃校になることが決まっています。

 高校は町外に出て、焼津市にある焼津水産高校に進みました。実家からは通学できないので、近くの市にある祖母の家に下宿をしました。

 いくつか学科がある中で、私が学んだのは海洋科学科。船長や漁師になることを目指す人らが進む学科です。小型船舶の免許が取れるほか、ダイビングや釣りの授業もあって、幅広く海について学びました。

 高校時代からは「船に乗る仕事がしたい」と思うようになりましたね。

 ―船のどんなところに魅力を感じましたか?

 船の操縦って車の運転と全然違うんです。ブレーキがない。アクセルがあって、それを緩めたり、止めたりして少しずつスピードを落としていく。難しいから、面白い。

 高校では船の操縦を学ぶ授業があって、それがすごく楽しかったんです。1級船舶免許も1回で合格しました。

 ―難しいから面白い...。奥が深いですね。「うずしお観潮船」を運航する鳴門汽船に就職したのは?

 高校卒業後は、別の会社にいったん勤めました。茨城と北海道を結ぶフェリーを運航する会社で、乗船して接客する仕事をしました。船に寝泊まりするスペースがあって、20日間船に乗って10日間休む。そんなペースで働いていました。でも、「陸上の仕事とあまり変わらないな」「もっと船の運航に関わる仕事をしたいな」と思い、転職活動を始めました。

 インターネットで情報を探す中で見つけたのが鳴門汽船。女性を船員として雇ってくれる会社ってすごく少ないんです。その中のひとつが鳴門汽船でした。

 働き始めたのは2021年5月。お客さんと一緒に船に乗って、渦潮の案内をしているほか、出発する時に障害物がないか確認したり、港とつなぐロープを外したりという業務も担っています…