万葉集にうたわれた和歌山県の白浜温泉。真っ白なビーチが美しい白良浜を臨む日本旅館の正面玄関に立ち、柔和な笑顔で観光客を出迎える。「お客さまに喜んでもらえたとき、何にも替え難い幸せを感じます。仕事が好きなんですね」
「むさし」の創業者が同郷という縁を頼りに、大学在学中からアルバイトで働き、卒業後そのまま就職した。「旅行は成長産業だ、と誘われてね。まさにその通りでした」
入社間もなく東京事務所に赴任し営業で全国を回った。東海道新幹線が開通し大阪万博も開かれようとしていた。国内旅行は右肩上がりに増えて、次々と旅行客を集めた。20年ほど前から総支配人として最前線に立つ。
時代の変遷に合わせて旅行スタイルも変わった。主流は団体から個人旅行に移り、その手続きはインターネットが中心だ。外国からの利用者も増えている。「年間12万人のお客さまを確保することが目標。情報収集力、提案力を高め、熱意を持って時代に立ち向かっていきたい」
接客時に心掛けているのは個々に合わせた対応。「お客さまの旅行目的はそれぞれ違い、価値観も異なるので、マニュアルに頼ったサービスでは通用しない。どう接すれば喜んでくれるか、感性を見抜く目を養っていかないと」。当意即妙なサービスにほれ込み、リピーターとなる利用者も少なくない。
自身は単身赴任で、館内の一室で寝泊まりしながら全体を見る日々だ。職業柄、古里ばかりか自宅にも長く戻ることはない。旅館に面した紀伊水道のはるか先、天候によって見える徳島の山容に癒やされるという。「徳島ナンバーの車で見えられるお客さまには、つい話し掛けてしまいます。古里の声が聞けるとうれしいですね」。
よこた・ひろし 宍喰町(現海陽町)出身。海南高(現海部高)を経て立命館大卒。元プロ野球監督の上田利治氏の2年後輩で、高校、大学在学時は野球に汗を流した。むさしでは常務取締役も務める。自宅は埼玉県新座市、77歳。