2015年も残すところあとわずか。社会や経済の話題ばかりでなく、文芸、美術、芸能といった文化分野においても広範な活動が展開された。徳島の文化振興に向けた動きを振り返る。
昨年骨折し、自宅で療養を続けていた徳島市出身の作家・瀬戸内寂聴が4月、約1年ぶりの法話を行い、元気な姿を見せてくれた。翌月から京都・寂庵で定例の法話を再開したほか、9月には徳島市で映画監督の山田洋次と対談。毎月の法話が人気を集めた鳴門市の「ナルト・サンガ」が昨夏閉庵となっただけに、いっそう県内のファンを喜ばせた。安保法案反対を訴え、単身東京へ駆けつけるなど、93歳とは思えない精力的な活動には驚かされる。新著「わかれ」に続いて書き下ろし長編小説に取り組んでおり、さらなる活躍に期待が膨らむ。
今年は例年以上に芥川賞作家が相次いで徳島を訪れた年でもあった。恒例となった「ブンガクダンギ」には吉村萬壱、玄月、藤野可織が顔をそろえ、観衆を交えて文学を語り合った。県立文学書道館では、柴崎友香、池澤夏樹、小野正嗣が講演した。
このほかにも、作家の高橋源一郎、藤原正彦、文芸評論家の若松英輔、歌人の伊藤一彦、栗木京子ら豪華な顔触れが来県。県民が文化に親しむうえで、こうした著名な文学者と身近に接する意義は大きい。
受賞関係では、徳島県文化振興財団のとくしま出版文化賞に「小歩危ダム阻止闘争と吉野川の濁り問題」(同編集委員会、会長・黒川征一三好市長)、同特別賞は吉永房子(徳島市)の「収録集
第二次世界大戦(満州事変・日中戦争・太平洋戦争)」が選ばれた。とくしま随筆大賞(徳島ペンクラブ主催)は、櫻川ふみ(上勝町)の「生涯青春」に決まった。全国公募のふくい風花随筆文学賞では南川亜樹子(鳴門市)の「マフラーの香り」が最優秀を射止めた。
出版物を見ると、小説では、野口卓(徳島市出身)が新シリーズ「ご隠居さん」を出すなど精力的な活動を続けた。紺野理々(徳島市)は「だからハルキはこの世界から消えることにした」を刊行、作品ごとに切り口を変えながら、若者の「今」を描出している。脚本家の旺季志ずか(阿南市出身)は初めての小説「臆病な僕でも勇者になれた七つの教え」で新境地を切り開いた。
ほかにも、船越隆子(徳島市)によるスペインの小説「情熱のシーラ」の翻訳、ドイツ中世英雄叙事詩を40年以上研究している石川栄作徳島大教授の「ジークフリート伝説集」など、そのジャンルは多岐にわたった。
歌集や句集は今年も数多く刊行された。800号を迎えた「徳島短歌」、20周年の俳誌「藍花」、50周年の「航標」がそれぞれ合同集を出し、主宰では歌誌「徳島歌人」の佐藤恵子が「山麓の家」、俳誌「鮎」の元木伝吉が「袋井」、「なると」の福島せいぎが「台湾抄」、「ひまわり」の西池冬扇が「碇星」を出版した。
詩集は嵯峨潤三「海と暮色」、渡部耕司「辞生の詩」など。連句集では「花音」の第7集が4年ぶりに出された。
一方で、板東俘虜収容所をはじめ郷土の出来事をつづってきた林啓介(阿波の歴史を小説にする会会長)が死去。有名無名の人々に光を当ててきた活動が引き継がれ、さらに深まることを望みたい。=敬称略