徳島を元気にする事業アイデア・プランコンテスト「とくしま創生アワード」の最終審査会が1月27日、徳島市のパークウエストンであり、アイデア、プラン両部門のグランプリとプラン部門の準グランプリ2組、学生賞が決まった。書類審査を通過したファイナリスト9組が事業計画を発表。サポーターを務める徳島ゆかりの経営者や実行委、協賛金融機関の担当者らが会場やオンラインで審査した。小中高大学生が対象の「ひらめき賞」で優秀賞に選ばれた3組も事業アイデアを説明した。それぞれの発表内容と受賞者の思いを紹介する。
アイデア部門【グランプリ】
株式会社GRAPHENIX(徳島市)代表取締役社長・赤松則男さん(79)
グラフェンの製造およびその応用製品(グラフェン・アルミニウム蓄電装置)の販売

二酸化炭素削減に期待
「これまで取り組んできたことが実現に近づいていると感じる」。赤松さんは2010年、ノーベル物理学賞受賞で注目されていたグラフェンに可能性を見いだし、同社を立ち上げて研究を続けてきた。約10年を経てこの度、独自のノウハウを確立した。
徳島大、京都大大学院で電気工学を学び、母校の徳島大で長年教壇に立った。研究分野では、日本語ワープロソフト「一太郎」やパソコン用の電子ペン開発に携わるなど、結果を残してきた。
グラフェン・アルミニウム蓄電装置は高電圧の電力を蓄えられて耐久性が高く、実用化すれば太陽光発電の電力を蓄えるのに適しているという。世界的なエネルギー問題の解消と二酸化炭素の排出削減に直結すると自負している。
県内企業に今回のアイデアを知ってもらうため、アワードに応募した。「徳島のためになると信じている。新しいものは決して一人ではできない。県内企業と力を合わせて取り組みを進め、徳島の若い人を育むのが使命だと思う」。郷土発展への思いを胸に、協力者を募っている。
アイデア部門【ファイナリスト】
入江僚さん(21)阿南高専専攻科1年
空気清浄・除菌清掃ロボット「みらい」
飲食店の清潔保つ
拭き掃除と除菌、空気清浄の三つの機能を備えたロボットの開発を目指す。菌やウイルスを不活化させる効果のある深紫外LEDを内蔵。机の上や床面を自走しながらLEDを照射して清掃し、搭載したファンモーターを稼働させて室内空間も除菌する。4人用テーブルなら2分余りで除菌できる想定。昨年10月、この装置の特許を出願した。新型コロナウイルスの影響を受けた飲食店などへの導入を想定しており、手間の削減と省人化のほか、客が安心して過ごせる店内環境づくりに役立ててもらう。
黒島綜一郎さん(25)東京大大学院都市工学専攻修士2年
にし阿波リンケージ~にし阿波産業の発展的継承へ向けた次世代型農村経営
耕作放棄地 解消へ
県西部を舞台に、就農を目指す若者、生物多様性の保全に取り組む企業と地元住民のつながりを育み、地域資源を次世代に継承する仕組みづくりに挑む。家を提供して若者を誘致し、地元農家で研修した後に企業が購入した耕作放棄地で農業に従事してもらう。企業には自然環境調査の結果を成果として還元。担い手不足と、空き家や耕作放棄地の問題を解決に導く。人々の交流拠点として、豊かな環境を生かしたレストランや宿泊施設の整備も行う。
学生賞
阿南高専5年 曽我井天信さん(19)窪田和海さん(20)
次世代手すり消毒ロボ~くるくるクリーン
自走型で安全性も配慮
医療機関などにある手すりに取り付けて使う、自走型の除菌ロボットを開発・販売する。手すりの表面を覆うアームに菌やウイルスを不活化させる効果のある深紫外LEDを取り付け、角度を変えながら照射して除菌する。両手のひらを広げたくらいのサイズで、前後に動いて手すり全体をきれいにする。テントウムシを模した親しみやすいデザインにするとともに、人の手を感知するセンサーを付けて安全性にも配慮した。
プラン部門【グランプリ】
株式会社Ponte(徳島市)代表 藤村泰之さん(41)
障害がある方の企業への就職を後押しする、官民民連携「交通サービス」

通勤手段の課題克服へ
「働くという場において、障害者という言葉をなくしたい」。Ponteは2022年1月に日産サティオ徳島(徳島市)とアクティブ(同)の共同で設立し、障害者と雇用契約を結んで働きながら技能を身に付けてもらう「就労継続支援A型事業所」を運営している。住宅の清掃や中古車の洗浄といった業務で専門的な技術を磨き、それぞれのプロとして仕事をこなす利用者の姿から、誰でも得意なことを生かして活躍できると確信している。
そんな中、一般企業への就労を目指す人にとっての大きな課題が見えてきた。地方では自動車通勤が前提となっていて、就職を希望しても移動手段のない人は諦めてしまう。その解決を目指し、今回の事業に行き着いた。就職のハードルを下げるとともに、企業の働き手確保や交通事業者の収入維持などに効果があると考える。
実現に向けては、ほかの福祉事業所や交通サービス事業者、自治体との協力が欠かせない。各方面への情報発信を続け、仲間を増やす。「人は挑戦する中で成長できると思う。チャレンジを続けて新しい価値を生み出し、次の世代につなげたい」。
プラン部門【準グランプリ】
C’est bon Jambon 徳島大学 石川環さん(22)
徳島のおいしいものを全国に! 時代を変える新しい食肉加工品

「徳大ハム」を全国発信
動物生産や食肉に関する徳島大の研究で得たノウハウを生かし、学生が手掛ける「徳大ハム」の全国発信を図る。徳大ハムは、家畜を快適な環境で飼育する「アニマルウェルフェア」に配慮し、トレーサビリティー(生産流通履歴)を確立した極めて珍しい商品。阿波和三盆糖や鳴門市の海水塩を使用し、徳島発のおいしい食肉加工品として、高級志向・健康志向の人々を主対象に通販会社や量販店に売り込む。
石井町のふるさと納税の返礼品として出荷しているほか、大学生協で試験販売も行っている。今春に起業し、大学と独占販売契約を結んで企画販売会社としてスタートする予定。大学院に進学し、会社の代表に就任する石川さんは「地域の人や仲間、先生方と力を合わせ、このおいしさを全国、世界に届けたい。ハムを通して徳島の魅力も一緒に伝われば」と笑顔を見せた。
緑のリサイクルソーシャルエコプロジェクトチーム刈草バイオマス工房・みらい代表顧問 湯浅正浩さん(62)
竹と刈草から生まれた生ごみ分解促進剤「シャカシャカ」

肥料回収し農家が活用
竹と刈り取った草を原料に、生ごみの分解促進に特化した菌床剤「シャカシャカ304号」を開発した。菌床剤の袋に水気を切った生ごみを入れて振ると、一週間程度で分解されて栄養豊富な肥料に変わる。この商品を核に、家庭から出る生ごみの削減を進める。
シャカシャカを利用する家庭と農家をつなぎ、家庭でできた肥料を回収して野菜作りに活用。育った野菜は家庭で定期購入する。ごみ削減と二酸化炭素の排出減に加え、農業支援にもなる地球に優しい事例として、将来は県内20万世帯への拡大を目標に掲げる。
チームは阿南光高校の生徒ら54人。まずは地元の高齢者にシャカシャカを利用してもらい、生徒が肥料を回収するつながりづくりから取り組みを積み重ねていく。湯浅さんは「高校生のアイデアが形になった社会を変える取り組み。ぜひ応援してほしい」と話した。
プラン部門【ファイナリスト】
細川渡船+建築&都市設計の専門家チーム 花岡竜樹さん(34)
釣りいかだに機能をちょい足し! ―ウチノ海の風景を未来に残す
サウナや食事提供
徳島の玄関口を象徴する風景の一つである鳴門市のウチノ海に浮かぶ釣りいかだに新たな魅力を持たせ、資源や環境を生かした地域活性化と景観保全につなげる。まきストーブとカーテンを設置した「サウナいかだ」、特別な食事を提供する「ダイニングいかだ」などアイデアはさまざま。渡船業者やサービス事業者ら地元関係者と協力して運営する。関西からのアクセスの良さを生かし、自然に親しみたい親子連れら釣り客以外の観光客を呼び込む。
(株)TimeMarket代表取締役・野口由加さん(33)
家事に関するカウンセリング、夫婦会議から家事代行まで。家事シェアの総合支援サービス
共働きの悩み解消
家族が自然と家事に参加できるサービスを提供し、共働き家庭が抱えるストレスの解消につなげる。依頼者へのカウンセリングを通し、その家族に合った家事の仕組みや負担割合を提案。家事代行や苦手な家事を習得するトレーニングを行って悩みに寄り添う。徳島が「日本一働きやすい町」になるよう、企業の福利厚生への売り込みにも力を入れる。子育てや介護を理由に離職した女性を積極的に採用し、主婦の経験を生かして活躍できる場としての浸透を図る。
AYAクリエイティブ代表・松坂智美さん(37)
自分史・家族史ウェブサイト
費用抑え普及図る
人生の歩みや家族の物語をまとめた「自分史」「家族史」のウェブサイトを制作する。自分史、家族史はこれまで一般的には自費出版のため多額の費用が必要だった。ウェブサイトにすることで自分史1サイト7万円からという価格を実現し、一般向けのサービスとして普及を図る。スタッフは全国各地の専業主婦らが務め、取材から制作までオンラインで行うのも特徴。将来的には、データを永久的に保存できる「個人情報アーカイブ事業」への進出も視野に入れている。
小中高大生、夢や思い込め ひらめき賞に応募39件
小中高大学生を対象にアイデアの種を募集した「ひらめき賞」には39件の応募が寄せられた。優秀賞に選ばれた3組がそれぞれの夢や思いを込めたアイデアを披露した。

川島高校の1年生3人でつくる「とくしまマルベリー」は、地域資源のクワに血糖値抑制や免疫力強化といった有効成分が含まれる点に着目し、葉や果実、幹を使って食品や飲料などを開発する構想を提案した。高校生がプロデュースして農家や食品メーカー、研究機関をクワの製品開発で結びつけ、徳島の人々の健康と新たな産業の創出を期待している。
徳島大理工学部4年の伊藤希帆さん(22)は徳島市幸町1にあるビルの空き店舗を使った交流スペース「まちの縁が輪」を運営している。利用者は、地域住民や学生、役場職員ら。本年度限りの社会実験として始めたが、広がり始めた人の輪を継続するため、他の空いた住居スペースに学生が住みながら施設を運営する計画を立てた。学生が子どもに勉強を教えたり多業種の人と語り合ったりしながら地域の交流を育むことは、効果的な町づくりを可能にすると考えている。

鳴門教育大付属小4年の大䕃朋紀君(10)は「科学者になって『ドラえもん』を作る」という将来の夢をかなえるため、会社をつくって仲間と研究費を集めるアイデアを発表した。得意なことを生かし、年齢を問わず誰もが学び合える教室「探求くらぶ」をメイン事業に据える。1月には大䕃君が講師になって風の力で動くロボットを作る講座を開き、多くの親子連れが楽しんだ。今後は、講師をしたい友達を主役にした新しい教室も開く予定。描いた夢の実現に向けて進んでいく。

特別審査員のハビリテ(徳島市)代表取締役・太田恵理子さんは、「アワードは成長できる場。やりたいことを言葉にして、実現していきましょう」と話した。
昨年度ファイナリスト6組が現状報告
文化拠点施設を開設予定/専用装置で研究開始へ
昨年度のファイナリストによる活動報告では、6組が登場して1年を振り返った。
液体の検体に含まれる複数の成分を網羅的に測定できる質量分析の技術を、本格的に医療へ活用する事業計画を発表したプラン部門グランプリの栃澤欣之(よしゆき)さん(33)は、受賞をきっかけに県立工業技術センターの専用装置が利用可能になり研究開始の道が開けたことを報告した。

赤ちゃんの泣き声に連動して泡のイラストを出現させ、親子のコミュニケーションを円滑化するアプリの開発でアイデア部門グランプリに選ばれた福本和生さん(26)=徳島大医学部6年=は、仲間とともに運営会社「クロスメディスン」を立ち上げ、アプリ開発を進めている。
小中学校への「演劇教育」カリキュラム導入を目指す鳴門市地域おこし協力隊の高橋真冬さん(28)は、市教委と連携を図りつつ、文化拠点となるカフェとスタジオの複合施設を今夏に開設予定だと話した。
母校の旧平野小学校の利活用を見据えた古民家ゲストハウスの運営計画で最終審査に臨んだ那賀町地域おこし協力隊の藤本雪絵さん(33)は7カ月の長女・幸津季(さつき)ちゃんと登壇。古民家を改修したり見学者を受け入れたりといった進展を伝えた。
阿南の竹を原料にしたバイオプラスチックの商品化を志すルビン恵里さん(35)は試作品を披露。竹の有効活用に取り組む県内団体などに所属して学びを深めている現状を語った。
学生賞の「OSATO」代表高木有紗さん(22)=徳島大4年=は、自社で学生の意見を活用して中小企業の商品開発を支援するサービスを提供している。和菓子店の事業に携わった経験に触れ「改善点はあるが、一歩ずつ歩みを進めたい」と話した。
FFRIセキュリティ代表取締役社長 鵜飼裕司さん講評
エネルギー受け取る
サポーターを代表して、FFRIセキュリティ(東京)代表取締役社長の鵜飼裕司さん=写真=が講評を述べた。

第1回からサポーターとして関わっている。その理由は二つ。自分の事業の参考にならないかという思いと、もう一つは思いを持って挑戦する皆さんからエネルギーを受け取るため。事業を年々続けていると、少し油断すればエネルギーが下がってくることがあるので、ここに来て元気をもらっている感覚がある。
アイデアやプランを発表した皆さんはよく理解していると思うが、起業は輝かしい未来ばかりでなく苦難もある。この会場には、夢に向かって頑張ろうとする皆さんを後押ししたい人たちが集っているけれど、一歩外へ出ると全員が応援してくれる環境ではない。しかし人生は一度きり。最期を迎えたときに「自分の思うことをやればよかった」という後悔は非常に大きいという。起業への憧れはきっと消えないので、やるなら早く始めたほうがいいと思う。そうすれば、仮に失敗したとしても「私は挑戦した」と言い切れる人生を歩めるだろう。ぜひ一歩を踏み出してほしい。
協賛金融機関 阿波銀行、徳島大正銀行、JAバンク徳島