鳥居龍蔵の日本人起源論は、三十数回に及ぶ海外のフィールドワークの成果を基にしている。問題となるのが、現地住民とのコミュニケーションだ。
彼のフィールドである台湾や西南中国、また樺太、沿海州から東部シベリアにかけての地域には、多様な少数民族が混在する。鳥居は、英語やフランス語、ロシア語に通じ、漢文の素養もあったが、それらの言語だけでは、多様な少数民族の社会で十分にコミュニケーションを取ることはできない。
極論すれば、一山越えれば居住する民族や部族が変わり、異なった言語を話している。そのような環境の中で、鳥居は言語の通じない人々と初めて会い、いかなる方法でコミュニケーションを取ったのだろうか…
残り895文字