美馬市美馬町の美馬中学校で2月2日、捨て猫のTNR活動に取り組んでいる愛護団体「あわねこ保育園」(徳島市)の井上智美園長らメンバーが「命の授業」を行った。2年生約50人に園の活動や猫の殺処分の現状などを説明し、過酷な環境で暮らす猫をなくすたために一人一人ができることを伝えた。(富樫陸)
あわねこ 飼い主のいない猫の保護や、捕獲(Trap)や不妊・去勢手術を施して(Neuter)元の場所に戻す(Return)というTNR活動を行っています。最近は芸能人などが保護猫というキーワードを広め、ペットとして選ぶ人も増えています。それでも無責任な飼育放棄により過酷な環境下で暮らす猫は絶えません。身の回りにいる猫は野性の動物じゃないんです。人間が愛玩動物(ペット)としてつくり上げたもので、自然界にいることが不自然。人に飼われず生きる力がある個体はほんの一部です。寒さに耐えられず死んだり、餓死したり、事故に遭ったりする子もいます。
生徒 よく野良猫がエサをもらっているところを見ます。幸せそうな気もするのですが?
あわねこ 野良猫にエサを与えるだけでは不幸な命が増える一方です。猫の繁殖力はすさまじく1回の交尾でほぼ100%妊娠、出産して平均5、6匹を産みます。その子猫が半年後には子どもを産めるようになるので、1年余りで最大70~100匹に増えることもあります。不妊手術をして、これ以上過酷な生活を強いられる猫を増やさないことが大切です。
さくら猫(不妊・去勢手術をしたしるしに、耳先を桜の花びらのようにV字にカットされた猫)を見かけたら、その猫にはお世話をしている人がいます。一代限りの命を温かく見守ってほしいと思います。
生徒 1年間にどのくらいの猫が行政機関に収容されているのですか?
あわねこ 環境省のデータによりますと、全国の自治体が引き取った合計数は2020年度で4万4798匹。犬が2万7635匹だったのと比べて圧倒的に多く、猫の繁殖力がとてつもなくすごいことが分かります。自治体に保護された猫の60%は新しい飼い主が見つかります。しかし、残りの40%は殺処分されてしまいます。
徳島県では現在、猫の引き取りをしていません。動物愛護法第35条が改善され、13年にブリーダーが売れ残った個体を持ち込んだり、飼い主が安易な理由で求めたりした場合、自治体は引き取りを拒否できることになりました。20年には所有者不明の犬や猫もその対象となりました。最後まで責任持って飼育させるためという意味もありますが、逆に猫を拾って県動物愛護管理センター(神山町)に持っていっても原則引き取ってくれないということです。(同センターでは21年度に65件の引き取り依頼に対応し、うち64件を拒否。殺処分数は開設した03年度から06年度まで3千匹台だったが21年度は50匹)。統計上では殺処分数は減少していますが、背景にはこのような要因もあります。
ブリーダーの繁殖を制限する法律はないため、行き場がなく捨てられた犬や猫は私たちのような民間団体へやってきます。新型コロナウイルス禍でのペットブームもあり、その数が増えている地域もあります。
生徒 殺処分が決まったらどうなるのですか?
あわねこ 県動物愛護管理センターに入った犬や猫は収容棟で譲渡が可能かどうかの判断を待ちます。譲渡の対象となった犬や猫たちは「きずなの里」というエアコン完備のきれいな建物に移動します。殺処分が決まった犬や猫は鎮静器の中に誘導されてトラックに乗せられ、県西部の焼却場への移動中に二酸化炭素が充満される。安楽死というよりは窒息死で、もがき苦しみ死んでいくのです。
生徒 殺処分や捨てられる犬猫が絶えないのはどうしてでしょうか?
あわねこ 生体販売の仕組みが、殺処分を生み出しやすいという指摘があります。ブリーダーさんが大量に繁殖した動物は、オークションにかけられてペットショップへ渡ります。業界では生後2、3カ月が売れ時と言われていて、少しでも成長してしまったら売れ残ってしまいます。売れ残った犬猫は保健所に持ち込むことは法律で禁止されています。それがどうなるのかは不透明な部分が多いですが、引き受けて劣悪な環境で飼い、格安で売る「引き取り屋」という業者も実在するのが現実です。家庭でも、かわいいからという衝動買いが遺棄につながるケースもあります。
生徒 犬や猫を捨てることは犯罪だと聞いたことがあります。どのくらい罪が重いのでしょうか?
あわねこ 遺棄や虐待は懲役1年以下または罰金100万円。殺傷したら懲役5年以下または罰金500万円という罰則が課せられます。またフランスでは24年から生体販売を禁止することが決まっており、多くの先進国で生体販売が見直されています。日本でも生体販売を禁止し、飼う場合は保護猫を選ぶことが当たり前になると殺処分が減っていくと思います。
生徒 保護猫や犬はどのようにすれば迎え入れることができますか?
あわねこ 愛護団体が譲渡会を開催したり、SNSで里親の募集を呼び掛けたりしています。ただ、お金を出したら迎え入れられるのではなく、本当にペットを飼えるのか、飼育環境や後見人はどうなのか、チェックをさせていただいています。命を預かる責任があるので厳しく審査させてもらっています。
おうちで動物を飼っている人、いつか飼いたい人は愛情を注いで命が尽きるその日まで大切に育ててください。そして、善意であっても現状を知らずに野良猫などへ餌をあげている人がいたら去勢・避妊手術が必要なことを呼び掛け、新たに猫を飼おうと考えている人には保護猫の選択肢もあることを教えてほしい。一人一人の意識で殺処分ゼロの未来が来ると信じています。徳島全体が人と猫が共生できる社会を目指せる町になるといいですね。
生徒たちは約50分間の授業を真剣な表情で聞き入り、命の大切さなどについて考えていた。藤澤奏音さん(14)は「一年間で多くの猫が生まれて、過酷な世界で生きていることを知ってびっくりした。一つ一つの命を大切にしたいと思いました」と話した。
生徒らは募金をして1万5609円を集め、17日、あわねこ保育園に活動資金として寄付した。