学生たちと校内に建設した木造仮設住宅「HOUSE」にて。

学生たちと校内に建設した木造仮設住宅「HOUSE」にて。

建設業DXリカレント講座の様子。毎週2回、対面とオンラインで実施する

建設業DXリカレント講座の様子。毎週2回、対面とオンラインで実施する

阿南工業高等専門学校
創造技術工学科 准教授
多田豊さん(41・上板町出身)

 最近よく耳にするDX。デジタルトランスフォーメーションの略称で、人々の生活がより良くなるように、デジタル技術を活用して自動化や効率化を進め、社会に新しい価値をもたらす取り組み全般を指す言葉だ。テクノロジー・IT業を筆頭に、製造業、小売業、金融業などあらゆる業界で推進されている。身近なものだと、セルフレジやモバイルオーダー、サブスクリプションもDXの例といえる。

 一方で、DXがあまり進んでいない業界も。その一つが建設業だ。「住宅や公共施設、道路や橋といったインフラなど、何をつくるにも一品生産。時間や手間がかかるのは仕方ないとされてきました。けれど、担い手不足かつ働き方改革が求められる時代、どうにか効率化する必要があります」と多田さん。こうした背景から、阿南高専で「新しい事務職へ就職・建設業DXリカレント講座」を開いた。新しい事務職とは一体? 「徳島で『事務職に就きたい』と考える人は多いのですが、常に人気が高く就職に“待ち”が生まれている。そこで建設業界において、技術者が担う業務の一部をサポートする『新しい事務職』として就職する仕組みを作れないか、と考えました。たとえば、パソコンで木造住宅や橋の3次元モデルを作ったり、工事写真を整理したり、点群データを操作したり。こういった技術を身につけた人材が増えることで、技術者の負担が減り、雇用が広がるんです」。

 昨年12月に始まったリカレント講座。子育て世帯や求職者、すでに建設業界で事務職に就いている人など56名が集まり、計60時間のプログラムに臨んでいる。建設業の基本的な考え方を学ぶ基礎講座24時間と、簡単なパソコン操作ができれば修得できるDX実習36時間からなるため、建設業をまったく知らない人でも受講できるのが特徴。建設業界への就職・転職や、事務職員としてのスキルアップを目指す。

 建築DXが進んだ先の可能性は、技術者の負担軽減や事務職の雇用創出に留まらない。多田さんは3D都市モデルの整備に着目している。「実際の都市空間をバーチャルに再現することで、都市開発や災害時の浸水などのシミュレーションができます。そのためには全国各地の地形や建造物のデータを収集する必要があるのですが、今いる技術者だけでは困難。やはり『新しい事務職』が必要不可欠です」。

 阿南高専に着任して4年目の多田さん。東京の都市計画コンサルタント会社や上板町の建築設計事務所に勤めた経験を活かし、地域に根ざした社会人教育に積極的に取り組んでいる。根底にあるのは、東京でいた時の東日本大震災の経験。「県南に勤めている以上、後悔しないようにできる限りのことをしたい」と、プロジェクトや研究を通して南海トラフ巨大地震の防災に向き合う。「建設業DXの推進もその一つで、建設業が弱ってしまうと復興が進まない。地域に働きかけることで、徳島の持続可能性を高めたいんです。学生はもちろん、地域住民を育てることも学校の役割。リカレント講座はその最初の一歩かな、と思います。これからもバージョンアップしながら続けていきたいです」。

>>HPあり(阿南高専・建築学研究室)