感情が揺さぶられる 短編動画コンテンツ
国連で掲げられたSDGsの各目標を達成するためには、どのような社会課題があるかを知り、一人ひとりがアクションを起こしていくことが重要です。Yahoo! JAPAN CREATORS Programのドキュメンタリー チーフプロデューサーである金川雄策さんに、ドキュメンタリーから知るSDGsについてお話いただきました。
●最初に、金川さんがドキュメンタリー部門の責任者を務めている【Yahoo! JAPAN CREATORS Program】について教えてください。
金川 個人のクリエイターが、インターネットを通じて投稿する動画コンテンツは、非常に大きな可能性を秘めています。才能と情熱を持ったクリエイターの制作活動をサポートし、Yahoo! JAPAN上での発信を通じて、ユーザーの方々の「明日の行動」へつながるような良質の動画コンテンツを届けていく。それが2018年11月に誕生した【Yahoo! JAPAN CREATORS Program】というプラットフォームです。現在は「ドキュメンタリー」をはじめ「おもしろ/ネタ」や「トレンド/カルチャー」「モノ/ガジェット」など、6つの分野で新進気鋭のクリエイターによるさまざまな短編動画や記事が配信されています。
●視聴できるドキュメンタリーの中には、SDGsと密接な関係がある作品も数多く見受けられます。金川さん自身が、SDGsを意識されるきっかけはどんなことでしたか。
金川 前職の新聞社に勤めていた頃でしたが、日本ではそれほど知られていなかったSDGsに関する企画の立ち上げに携わったことがありました。色々と
学んでいくうちに、メディアの役割としてもっと広く伝える責任があると思うようになって。その後、私自身がドキュメンタリーの道へ進みたいと考えるにつれ、映像作家たちが扱うテーマの大半が、SDGsで提唱される社会課題と重なっていることが多い事実に気がつきました。
●ニュースとドキュメンタリー、どちらも経験されているわけですが、一番の違いはどんなところでしょう。
金川 そうですね。ニュースは、必要なインフォメーションを速報性を持って伝えるものだと考えています。それはとても大切なのですが、どうしても現場にいる人々の感情、エモーションが削ぎ落とされてしまう部分があります。関わる人々の強い思いを届けることができるのが、ドキュメンタリーの特徴です。インフォメーションとエモーション、一番伝えたい部分の違いが、そのまま役割の違いと言えるかもしれません。
社会課題を考え、行動するきっかけに
●2020年3月から【Yahoo! JAPAN CREATORS Program】
内に新しく立ち上げた特集『DOCS for SDGs』とは、どのような取り組みですか。
金川 日本でもSDGsに関する認知度が高まってきた一方で、当時は「動画コンテンツを使って広げていく」というアプローチがほとんどありませんでした。そこで、世界の「今」を映し出す良質なドキュメンタリーから社会課題を知るだけでなく、課題解決を実践するロールモデルとなる人たちの姿を通じて、未来を創っていくきっかけになればという思いから始まった特集です。
●ピックアップされている短編作品は、どれも質の高いものですが、そこから実際に人々の意識や行動が変わっていった事例はありますか。
金川 たとえば、過疎が進む熊本県産山村で〝あか牛〟を丁寧に育てている畜産農家の親子を追った『村で生きる』。この作品は、17の目標のうち「2 飢餓をゼロに」「11 住み続けられるまちづくりを」「12 つくる責任 つかう責任」「15 陸の豊かさも守ろう」などに関係しています。『DOCS for SDGs』に取り上げられてから、後継者になりたいと手を挙げる人が出てくるなど、少しずつ変化が生まれている感触はありますね。
●『DOCS for SDGs』に選定されるドキュメンタリー作品の特徴や、そこからの展開を教えてください。
金川 選定基準としては、クリエイターからユーザーへ伝えたい思いやメッセージの明確性、社会的に意義がある内容かどうかという部分を重要視しています。そして、今は作り手側も互いに意見を交換しながら制作する仕組みにより、独りよがりにならず成長できる土壌を構築しているところです。これは私が理事を務めるデジタル・ジャーナリスト育成機構(D-JEDI)も同様で、誰もがメディアになることができる時代だからこそ、ドキュメンタリーの制作者は、しっかり「伝える」手法と考え方を学ばなければなりません。また2021年度からは『DOCS for SDGs』の映像を活用し、中学・高校が対象の探究学習入門プログラム提供なども行っています。
●最後に、SDGsを達成していくにあたり、私たちが考えるべきこと、できることは何だと思いますか。
金川 伊藤詩織さんが手掛けた『SUNCATCHERS』という作品で、視覚を失った主人公が、ラストにこんな言葉を話しています。「世界平和とかさ、地球の環境問題、SDGsと大きく考えてしまうと何から始めていいか、わかんなくなっちゃうかもしれないけど(目が)見えなくなってから、世界って何だろうって考えたときに、今の自分の世界って手の届く範囲だったんだよね」。一人ひとりが、自分にできる小さなアクションから始めていけば、きっと地球全部がカバーできる――。身近なところから少しずつ行動を起こしていくことが大切だと考えています。
金川雄策
Yahoo! JAPAN CREATORS Program短編ドキュメンタリー部門責任者。2004年より全国紙の映像報道記者として、東日本大震災、熊本地震、パリ同時多発テロ事件、ブラジル・リオパラリンピックなど国内外の現場で取材。情報をより早くわかりやすく伝えることに重点が置かれるニュースの限界を感じ、より深く伝えられるストーリーや映像の可能性を信じて、NYでドキュメンタリーフィルムメイキングを学ぶ。1年間の休職留学中に監督や撮影監督を務めた作品が、SXSWなど海外映画祭にノミネートされた。2017年ヤフー株式会社に入社し、クリエイターズプログラムドキュメンタリージャンルやDOCS for SDGsの立ち上げなどを主導。一般社団法人デジタル・ジャーナリスト育成機構理事。2021、2022年、日本民間放送連盟賞中央審査員。
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