3月8日の国際女性デーにジェンダー平等を目指し女性の人権や性差別について考える記事を紹介する。
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性被害やドメスティックバイオレンス(DV)、生活困窮などに直面する女性への支援を強化する「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」が2022年5月、成立した。従来の女性支援は「売春を行うおそれのある女性の保護更生」を目的に1956年に制定された売春防止法(売防法)を根拠に行われており、現代社会で困難を抱える女性たちのニーズに合っていないとの声が、支援現場などから上がっていた。新法の必要性を早くから訴え、制定にかかわったお茶の水女子大の戒能民江名誉教授(ジェンダー法学)が昨年12月、県庁で行った講演の内容を紹介する。
【支援の視点がない売防法】
売防法は戦後の混乱期、社会が貧しい頃に作られた。売春を禁止するが、売る方も買う方も処罰しないという独特の性格を持つ。処罰するのは売春を助長するようなあっせん業者や、売春を誘う女性。街角に立つ女性たちは「勧誘罪」で取り締まられた。売防法に基づく婦人保護事業は、そうした女性を保護して更生させることを目的としており、人権保護や自立支援という視点はなかった。
このような成り立ちの婦人保護事業を転用する形で、国は2001年のDV防止法成立以降、DV被害者支援を行ってきた。婦人保護事業で寄せられる相談は今や、そのほとんどがDVだ。しかしながら、人権保障とはかけ離れた考え方で作られた法律が事実上、女性支援の法律として66年間そのままにされてきた。
【さまざまな困難に直面する女性たち】
DV相談はコロナ禍で1・5倍に増えたといわれ、DV被害者支援センターや婦人相談所を合わせると全国で年間17万件くらいある。深刻な状況に追い込まれている女性は多い。ただ、市民に最も身近な市町村での配偶者暴力相談支援センターの設置は「努力義務」にとどまり、全国で約5割の自治体しか設けていない。支援体制は十分とは言えないのが現状だ。
最近は、若い女性たちがさまざまな困難に直面していることも分かってきた。性的虐待や貧困により家族から孤立し、居場所がない。繁華街をさまよっていると待ち構えている男たちがいて、性風俗にからめ捕られて性的に搾取される。望まぬ妊娠をして、一人きりで出産する人も。このような状況下でメンタルに不調をきたし、薬がやめられなくなってオーバードーズ(過剰摂取)したり、自殺したりする女性も多い。
さまざまな状況下で苦しむ女性たちを、売防法を根拠に支援するのは限界があった。売防法は犯罪と処罰を定める刑事法。勧誘罪は執行猶予が付く場合が多く、更生のため「補導処分」とされる。保護される女性は性暴力の被害者なので救済する必要がある一方で、補導して更生させる加害者であるという矛盾をはらんでいた。
【現場の声を受け、新法を成立させる】
「現代社会のニーズに合っていない」「法律を変えてほしい」との声が現場から上がり、新法が模索されるようになった。法律を作るためにはまず、政治課題にする必要がある。与野党の国会議員を訪ね、女性たちが置かれている状況を説明して回った。
脱売防法を目指し、必要な女性に支援の届かない現状を、とにかく変えたいとの思いだった。1年間にわたって開催された検討委員会を経て、成立。DVや性暴力に関心を持つ超党派の女性議員を中心に、DV防止法と同じく議員立法で法案が作られた。
新法のポイントは、民間団体と公的機関がそれぞれの良さを生かしながら、一緒に支援していくという考え方を提示したこと。その上で女性の人権を擁護し、男女平等の実現を基本理念に掲げた。民間と協働だが、支援の責任を負うのは公的機関。都道府県には、推進のための基本計画を策定するよう求めている。
民間団体はこれまで、さまざまな状況に置かれた女性に対し、柔軟に対応してきた。若年女性の支援にしても、先進的に取り組みを実践している。法の理念に基づき、自治体には民間をしっかりと支援してほしい。民間委託という形で、そのノウハウを生かしてもらってもいい。
まずは都道府県が動くことが大切だ。市町村は、県の姿勢や取り組みを見ている。県が率先して動き市町村に働き掛けることで、苦しい状況に置かれた女性たちが救われると思う。