木渼斗(きびと)
切中俊裕さん(43・つるぎ町出身)
神社仏閣の建設や修繕を手掛ける宮大工。徳島市渋野町に工場を構える切中建築の代表、切中俊裕さんは、県内では数少ない宮大工の一人である。木渼斗(きびと)という屋号を掲げ、社寺建築の新たな可能性を切り拓こうとしている。
家屋大工である父の姿を見て育った切中さんにとって、建築は身近なものだった。小学生の頃から父の現場に出入りし、さまざまな分野の職人と出会ううちに「父とは違う道を進んでみたい」という思いが芽生えた。ある日、西岡常一氏を特集したテレビ番組を偶然目にする。西岡氏は、法隆寺の大修理や奈良薬師寺の金堂再建を手掛けた伝説的な宮大工。その力強くも繊細な世界に魅了され、宮大工を目指すことを決意する。
高校卒業後は奈良へ移り、西岡氏の外弟子の下で修業を始めた。最初は掃除ばかりだったが、徐々に見習い仕事を任されるように。先輩大工の背中を見て技術を覚え、休憩時間や勤務後にノミの研ぎ方や鉋の使い方を教わった。奈良を中心に、京都や大阪、三重の社寺で経験を積んだ切中さん。「東大寺の大仏の内部を掃除したこともありますよ」。同時期に、藤ノ木古墳の石棺開封やイースター島のモアイ像修復を手掛けた奈良の石工、左野勝司さんにも師事。「ここで教わった仕事に対する心構えが、20年以上経った今でも活きています」。
5年半ほどの修業期間を経て25歳で独立。しかし、順風満帆というわけにはいかなかった。「営業経験のない若者が自己流の営業でお寺や神社に行っても相手にしてもらえなかった。しかも、修業期間中に寺社の再建ラッシュが過ぎてしまっていたんです。最初は仕事がなくて、母の知人である棟梁にお世話になっていました」。木造建築に携わるうちに経験と繋がりが積み上がり、だんだんと社寺の仕事も増えてきた。現在では社寺をはじめ、木造建築全般、家具やフォトブースまで幅広く手掛ける。「建造物を見て、時代ごとの特徴を捉えて、老朽化した木や瓦を新しいものに取り替えて、建てられた元の姿に戻すのが宮大工の仕事。どんな建物でもそうやけど、建てたり直したりしたそのときはもちろん綺麗。自分が関わった建物を何年か経ってから見たときに、当時と変わらない姿のままだとホッとするんです」。
現在、切中建築には頼もしい2人の仲間がいる。1人は、大工のジェンダ・アレクサンドロさん(50・ニューカレドニア出身)。もともとニューカレドニアで大工をしていて、3年半前に奥さんの実家がある徳島へ移り住んだ。「宮大工は一般の大工よりさらに細かい技術が求められる。パッションがないと難しい仕事です。でも、今はとにかく楽しいです」と笑顔。個人のプロジェクトとして、県産木材を使ったサーフボード作りにも励む。もう1人は椿森雷太さん(24・東みよし町出身)。前職の不動産会社で賃貸物件の工務に携わるうちに「自分も職人として家づくりがしたい」と思うようになり、今年2月から切中建築に加わった。これから大工に営業に、幅広く取り組む予定だ。
切中さんは、今年4月に初開催のイベント「一宇REVIVE(リバイブ)祭」の実行委員長を務める。「生まれ育った旧一宇村は、すべての学校が廃校・休校になってしまった。もう一度、子どもたちの声を一宇に響かせたいんです」。イベントでは、一宇中学校のグラウンドを舞台に、マルシェ、音楽やダンスのパフォーマンス、校舎へのプロジェクションマッピングなどを行う予定。「第1回を成功させて次に繋げたい」と意気込む。木渼斗とリバイブ祭、両方に共通するのは「失われたものを復元したい」という想い。「いつかは徳島城の天守閣や眉山にあった大滝山三重塔などを復元したい」と夢を語る。
>>切中建築
徳島市渋野町浅田62-1
一宇REVIVE祭
4/29(土・祝)17:00〜23:00、4/30(日)7:30〜15:30
場所=一宇中学校グラウンド(つるぎ町一宇太刀之本1)
料金=入場無料