犬や猫の殺処分はなぜなくならないのか。徳島県内では2021年度に犬219匹、猫50匹が命を絶たれた。神山町阿野の県動物愛護管理センターを訪ねて殺処分の現状を取材し、職員に話を聞いた。

譲渡を待つ犬猫がいる「きずなの里」

 センターでは主に県内で警察や保健所が保護・捕獲した迷い犬猫や野良犬猫を引き取っている。21年度は犬817匹、猫168匹の計985匹が収容された。センターに来た犬や猫がまず入るのが「収容棟」。「保護房」という鉄格子の部屋で20日間ほど過ごし、行方不明になったペットを探す飼い主が現れれば返されるほか、飼育を希望する人への譲渡に適するかどうかの判定を受ける。健康状態や「人に慣れている」「首輪をつなげられるか」といった性格が審査され、通過すると「きずなの里」というきれいな施設に移り、譲渡会などを通して新しい飼い主が現れるのを待つことになる。

譲渡を待つ子犬
 

 それでは審査で通過できなかった犬や猫は全て殺処分になるのか? 実際はそうではなく「現時点で一般の方への譲渡は不可」というのが正しい。動物の飼育や指導に慣れている民間愛護団体へ渡る「団体譲渡」という形になり、センター公認の団体が人慣れの訓練などをした後、新しい飼い主へと引き渡す。

 「愛護団体の方には負担をかけて申し訳ない」。センターの担当職員はうつむきながら話した。ただ、センターで収容できる動物の数には限界がある。殺処分ゼロに向け、行政と民間がタッグを組んでいる。

 しかし、団体譲渡も難しいと判断されると殺処分の対象となってしまう。「人に懐くのが難しい」「重い病気を患っている」「引き取り手が見つからない」といったケースだ。

 殺処分の流れとしては、「鎮静器」と呼ばれる縦横1・2メートル、奥行き1・5メートルの金属製ボックスの中へ、壁を押し寄せて犬や猫を誘導する。鎮静器はトラックの荷台へ乗せられて県西部の火葬所へ向かうが、この時には中にいる犬や猫は生きている。殺処分が行われるのは火葬場への移動中。センター開設の2003年に条件として住民と交わした、施設内では殺さないとの約束を守っているためだ。職員は「この誘導ボタンを押す際には心が痛くなる」という。

 方法としては、二酸化炭素を鎮静器の中に充満させる窒息死。適切な二酸化炭素の調節ができているかどうか、内部の様子は職員がモニターで終始監視している。「もがき苦しんでる動物の姿を見ると本当に胸が張り裂けそうになる。つらい」と職員。県西部に着く頃には息が絶えている。焼却された後、遺骨は業者によって処分される。

 21年度に収容されたうち犬は446匹、猫は115匹に新しい飼い主が見つかった。殺処分数は愛護団体やセンターの取り組みなどで年々減り、21年度の計269匹は10年前(11年度3215匹)と比べれば10分の1以下になっている。21年度には県が目指す「(譲渡により)助けられる犬・猫の殺処分ゼロ」を達成した。それでも攻撃性があり、回復が見込めない病気やけがの個体もいるため、「ゼロ」にはまだ遠い。

 センターには県内外から殺処分に反対する電話やメールが押し寄せる。獣医師の資格を持つ職員は「動物を殺すために獣医師になった訳ではない。保護した動物の治療や動物愛護の啓発など、命救う前向きな仕事がしたい」と複雑な胸の内を明かす。

人が与えたエサに集まってきた猫

 一方で、センターに収容される犬や猫は後を絶たない。飼い主が飼育を放棄して捨てるほか、かわいそうだからと野良犬や猫へ無責任にエサを与える行動がその一因になっている。職員は「この現状を知っていただき、飼うなら愛情と責任を持って命が尽きるまで面倒を見て、子犬や子猫の新たな飼い主の予定がない場合は避妊去勢を必ずしてほしい。エサをあげるなら避妊去勢手術をしてから与えること。人と動物がともに暮らせる徳島づくりを目指してほしい」と呼びかけた。

 愛護団体や行政の力だけで「殺処分ゼロ」の実現は難しい。不幸な犬や猫をなくすために、この問題が他人事ではないことを一人一人が改めて認識する必要があるだろう。(富樫陸)