三好市出身の映画監督蔦哲一朗さん(38)=東京都在住=が、徳島県西部から香川県の農家に農耕用の牛を貸し出していた古い慣習「借耕牛(かりこうし)」を題材に製作を進めている長編映画「黒の牛」の冬季ロケ撮影を、2月1~11日に同市池田町の黒沢湿原で行った。蔦監督は「出演者や優秀なスタッフのおかげで今回もいい絵がいっぱい撮れた」と笑顔で振り返った。

徳島三好ロケ終了を喜ぶ蔦哲一朗監督(左)と主演の李康生さん=三好市の黒沢湿原

 映画は、住む山を追われた狩猟民の男が牛と出合って農耕を始め、牛と共に田を耕しながら自然とのつながりを取り戻そうとする姿を描く。

 冬季ロケから、水を司る竜神様を守る老人役で舞踊家のケイ・タケイさんが参加。黒沢湿原の雪景色をカメラに収めるとともに、台湾人俳優の李康生(リー・カンション)さん演じる主人公の男と、彼が身を寄せた老人との生活シーンを中心に撮った。

冬季撮影は一帯が雪に覆われた黒沢湿原と屋外セットが舞台となった
冬季撮影から参加した老人役のケイ・タケイさん(右)に演技のイメージを伝える蔦哲一朗監督=三好市の黒沢湿原
三好市西祖谷山村の「西祖谷の神代踊り」を取り入れた雨乞いシーンの撮影が行われた=三好市の黒沢湿原

 徳島でのロケの最終日となった11日は、冬季ロケの大一番となる雨乞いシーンを撮影。クレーン車を投入して進めた。

 2022年に国連教育科学文化遺産に登録された民俗芸能「風流踊」の一つ、三好市西祖谷山村の「西祖谷の神代踊り」も取り入れた。この踊りは雨乞い祈願が起源とされ、蔦監督が地元の保存会に協力を求めたことで実現した。保存会の会員ら約20人が農民役でエキストラ出演し、老人が池の中で雨乞いの儀式を行っている周りで、花がさや天狗の面を着けて扇子を手に踊った。

 映画は22年5月に三好市でクランクインし、四国4県や台湾でロケを行ってきた。全ての撮影を終えた蔦監督は現在、編集作業に取りかかっており、完成は夏頃を予定している。海外の映画祭などへの出品を計画しており、その後に国内上映となる見込み。「この映画を通して徳島の良さや風習を世界中の人に知ってもらいたい。そして、なるべく早く完成した作品を地元の皆さんにもお見せしたい」と語った。(植田充輝)

 

拡声器を手にして指示を与える蔦哲一朗監督(左から2人目)=三好市の黒沢湿原