「食糧の確保と自立は、最大のライフライン」。そうした理念の下、買い物弱者と呼ばれる高齢者らの買い物支援に当たっているのが、移動スーパー「とくし丸」だ。2012年に徳島市で産声を上げ、全国47都道府県で事業展開している。少子高齢化、過疎社会におけるソリューション・ビジネス(課題解決型事業)、オンデマンド・ビジネス(要求・需要対応事業)の一つのモデルケースでもある。
過疎化が急速に進む地方の中山間地などでは、最寄りの商店やスーパーがいつの間にか姿を消し、自家用車などの交通手段を持たないお年寄りたちが、ふだんの買い物にさえ難儀している。いわゆる「買い物難民」である。こうした場合、住民らはバスで1時間以上もかけて、買い物に出掛けることなどを強いられている。そしていずれは、市部に暮らす息子や娘を頼って移り住むなどして、やがて集落や地域そのものが崩壊してしまう。
筆者の村上稔さんはそんな事情を知り、「とくし丸」を立ち上げた創業メンバーの一人だ。現在は徳島、香川両県で事業を展開する「Tサポート」社の代表取締役を務める。
移動スーパー「とくし丸」は、シンボルカラーであるオレンジ色の改造軽トラックで、各地を回る。軽トラには野菜や果物、お惣菜、寿司、パン、菓子、日用品まで約1000点以上を積み込み、顧客のいる集落へ。お客さんは商品を実際に自分の目で見て、触って購入できるのが、通販との大きな違いだ。また、そこには顔なじみの人たちが集い、何げない会話に花を咲かす。そうした顔の見える人間関係を築くことによって、高齢者の健康状態などをチェックし、見守りの役割も果たすというのだ。
商品を積んだ軽トラを運転し、販売するのが、この事業の主役である「販売パートナー」だ。本部の募集に応じて、契約した個人事業主である。商品の仕入れは各地の地元スーパーなどと提携しており、たとえば徳島ではキョーエイ、サンシャイン池田、オオキタから納品している。
事業を円滑に運営するポイントとなったのが「プラス10円ルール」だ。商品一点につき、実店舗の価格に10円だけ上乗せして販売する仕組みだ。つまり商品を5点買えば50円、10点買えば100円を上乗せして支払う。村上さんいわく、採算の取れにくい移動スーパー事業を成り立たせるための「運営協力金」のようなもの。この10円のうち、5円がスーパーに入り、5円が販売パートナーに残る。
一台当たりの一日の売り上げ点数が300~400点なので、販売パートナーにはおよそ2000円が入る計算だ。これがおおむね、ガソリン代に充当するという。こうした「プラス10円ルール」によって、とくし丸、提携スーパー、販売パートナーの「三方よし」、いや買い物客を加えて「四方よし」の関係が築かれているわけだ。
本書はこうした移動スーパー事業の立ち上げから、軌道に乗るまでの奮闘ぶりを、各地の先進事例や事業者のインタビューも含めて紹介。村上さんの熱量が伝わってくる一冊となっている。
村上さんは吉野川河口の可動堰(ぜき)建設計画に反対する市民運動に加わり、可動堰計画の是非を問う徳島市住民投票の実現に尽力(2000年1月23日実施。投票率55%、計画反対が10万2759票、賛成が9367票)。1999年から、徳島市議を3期務めた。現在、沖縄国際大学特別研究員。著書に「希望を捨てない市民政治―吉野川可動堰を止めた市民戦略」(緑風出版)などがある。
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村上稔著「買い物難民対策で田舎を残す」は岩波ブックレット、80ページ。620円(税別)。