木田英之写真集「黒白のメッセージ」

木田英之写真集「黒白のメッセージ」

 少子化・人口減少が進み、子どもたちの遊び声が絶えて久しい山村集落も多い。農林漁業の従事者は激減し、荒れた田畑跡が野に広がることも珍しくない。そんな今こそ手に取ってほしい写真集が、今回紹介する「黒白のメッセージ」だ。

 日本リアリズム写真集団の徳島支部長も務めた阿南市の写真家・木田英之さんが2000年に出版した第一作品集で、その名の通り、全編モノクロ(白黒)写真で編まれている。

 現在の阿南市や海部郡、小松島市といった県南部を中心に、木田さんが1950年頃から半世紀にわたって撮りためた113点を収録。懐かしい山村、漁村の風景が活写されている。昭和でいうと、30~40年代。戦後の混乱をようやく脱し、高度経済成長へと向かう時期に当たる。決して豊かではないが、家族や共同体の温かさに満ちた暮らしがリアルに切り取られ、見る者をぐいぐいと引き込む「写真力」にあふれる。徳島県出版文化賞、日本自費出版文化賞(グラフィック部門賞)を受賞するなど、高い評価を受けた。

 木田さんは1933年生まれなので、10代半ばからカメラを手にしていたことになる。本書出版時の徳島新聞のインタビューでは「母にカメラがほしいと頼むと、米を大八車に積んでカメラ屋へ行ってくれた。うれしくて最初に母を撮りました」と往時を振り返っている。

 この写真集を特徴付けるのは何と言っても、子どもたちの生き生きとした様子と、働く者たちの姿を捉えていることだ。

 ベーゴマ遊びや凧あげ、チャンバラに興じる子どもたちの表情は、すこぶる明るい。髪型を見ても男の子は丸刈り、女の子はおかっぱがほとんどだ。一方、大きな荷物を背負って汽車を待つ行商の女性たちや、浜辺での漁具の補修、農耕馬を使っての田作りなど、日々の労働にもレンズを向けている。その他にも餅投げ、村芝居、さらには夜店の「大蛇ショー」まで、平成・令和世代の若者には見たことのないワンダーランドが広がる。

 このように木田さんの写真には、今では見ることのない徳島の風景・習俗が焼き付けられており、貴重な近現代史資料としての価値も高い。県立文書館に1500点以上が寄贈され、2014年には企画展「木田英之が撮った徳島のくらし―忘れがたき子どもの情景」が開かれた。本書「黒白のメッセージ」からも、二十数点が展示されている。

 木田英之写真集「黒白のメッセージ」は第一出版刊、私家版。徳島県立図書館、小松島市立図書館などで閲覧できる。