平地でぽかぽかと暖かさが感じられるようになると、山ではミツマタの花が咲き始める。花弁が丸くまんじゅうのように密集した黄色い花は、和菓子のような美しさがある。強じんな皮が和紙の原料となり、日本では紙幣に使われることで有名だ。
原産地はヒマラヤ山脈とされる。日本には中国を通り伝わったといわれるが、いつ頃なのかはっきりしない。和紙にはコウゾ、ガンピが多く使われており、ミツマタが用いられるようになったのは江戸時代後期からとする資料もある。
本格的な栽培が始まったのは明治期。紙幣や公文書用の滑らかな紙を造るのに適した加工法が確立された。印刷局が値段を決めて買い上げる「局納」制度も手伝い、山の換金作物として盛んになった。徳島県は全国有数の産地である。
写真は1956(昭和31)年に一宇村(現つるぎ町)で撮影されたもの。山の斜面にびっしりと植えられ、つぼみが膨らみ始めたミツマタ畑の小道を下る親子連れの姿を捉えている。