徳島市の阿波踊りが12日、幕を開けた。59回目の夏を迎えたのが、総勢約420人を率いる有名連・娯茶平の岡秀昭連長(77)だ。体力の低下を感じつつも、阿波踊りへの情熱は衰えない。「一人でも多くの人に阿波踊りを、徳島を好きになってもらいたい」。変わらぬ思いを込めて熟練の技を披露し、観客を魅了した。踊り初日、岡連長に密着した。

熟練の踊りで観客を魅了する岡連長=午後6時15分、市役所前演舞場

 

 

午後5時15分  娯茶平の集合場所である徳島中央公園に岡連長が姿を見せる。一緒に踊る「サントリー ザ・プレミアム・モルツ連」の結団式に出席し「気合入れて頑張りましょう」と呼び掛ける。

5時45分  徳島市役所前演舞場に移動。昼間は阿波おどり会館で3公演をこなし「正直、体にはこたえる」と言いながら「毎年初日は、気持ちが高ぶる」と緊張感がにじむ。

6時10分  市役所前演舞場に踊り込む。

6時40分  南内町演舞場へ。孫が寄ってきて一緒に写真を撮る。5人全員が娯茶平の連員で「強制したわけでないのに、一緒に踊れてうれしいよなあ」。じいちゃんの顔になる。

7時15分  南内町演舞場を踊り終える。各演舞場では先頭で踊った後、出口付近で振り返って仁王立ちし、連員の踊りをチェックする。「目の前で私が見ていると、手を抜けられんでしょ」。厳しい視線を注ぐ。「娯茶平をわざわざ見に来てくれる人がいる。期待は裏切りたくない」と力を込め、歴史ある連を担う連長としての使命感と誇りがみなぎる。

連員の踊りをチェックする岡連長=8月12日午後7時15分、南内町演舞場

7時25分  紺屋町演舞場に向かう途中、両国橋で観光客から「記念写真いいですか」と話し掛けられ、気さくに応じる。

8時15分  紺屋町演舞場前で「ここは私にとって聖地みたいなもの」と話す。かつては料亭で飲食した財界人らが見物に訪れ、格調高い雰囲気があったという。「紺屋町で踊るのが憧れであり、今でも他の場所とは違う気持ちがある」と気を引き締める。

8時50分  紺屋町演舞場で踊った後、「サントリー ザ・プレミアム・モルツ連」と分かれる。

9時15分  藍場浜演舞場に登場する。三味線を先頭にした100人近い鳴り物が場内に入り、粋な音色が響く。雑然とした雰囲気が消え、約4900席を埋め尽くした満員の観客は固唾(かたず)をのむように見つめる。騒々しい街とは別世界のような凜(りん)とした静けさが漂い、踊り子が続く。明らかに「空気の変化」が感じられ、連長は「気付いてくれましたか。あの一体感が阿波踊り最高の魅力です」。娯茶平の神髄に、観客が酔いしれる。

10時15分  2部最後の連として再び紺屋町演舞場へ。踊り終えると、観客が花道に降りて踊りながら退場する。次々に連長の元に駆け寄り「良かったです」「また来ます」などと言いながら、握手や記念写真を求める。

記念写真に応じる岡連長=午後7時25分、両国橋

10時35分  初日を終え「やっぱり最高やねえ。皆に喜んでもらえたら疲れも吹っ飛びますわ」と充実感いっぱいの表情を見せた。昼間の公演に続き、夜は4演舞場で5回踊った。原動力になっているのは「阿波踊り愛、徳島愛」と強調。「ここ数年は引退も考えている」と明かした上で「でも楽しみにしてくれる人がいる以上、死ぬまで踊り続けるんでしょうな」と笑った。

10時40分  帰り際に、他連の連員や観光客らが「お疲れさまでした」と声を掛ける。連長はこう返す。「また明日」。夏は始まったばかりだ。