英語も分からんのに、何で外国の歌を聴くのだ、と友人。分かってないなあ、と返してはみたが、言われてみると、なぜ?

 リズムかメロディーか、その辺のものが一緒くたになって入り込み、内側から心を揺さぶり、熱くする。言葉じゃないんだよ、そんな歌い手がいるんだよ、と40年前の友人の疑問に今、答えてみる。なけなしの小遣いで買ったレコードに、とんと針を落とし、曲が始まるまでの緊張感は格別だった

 惜しまれつつ逝った米国の歌手アレサ・フランクリンさんも、そんな歌い手の一人だろう。代表曲の一つ「リスペクト」。もとは同じソウル歌手オーティス・レディングさんの曲だ

 レディングさんは叫ぶ。「帰った時ぐらい俺を大事にしてくれよ」。フランクリンさんは視点を女性に変え、全米チャートの1位を取った。「帰ってきた時ぐらい私を大事にしてよ」

 公民権運動やベトナム反戦、既存の道徳的価値観を壊すカウンターカルチャー。男女平等を目指すフェミニズム運動の象徴にもなったフランクリンさん。1960年代、変わる時代の真ん中で、「ソウルの女王」の称号を不動のものにした

 今も時代は動いているけれど、魂を突き動かされるような出合いが、どれほどあるだろう。己の感性が年を食ったのか、歌い手の問題か。恐らく、その両方なのだろう。