筆談で接客するホステスとして働く粟田さん=札幌市のススキノ

 札幌市の繁華街ススキノで、聴覚障害のある徳島県美馬市出身の粟田千尋さん(29)が、筆談で接客するホステスとして働いている。2月に移り住み、ペンを片手に客と向き合う日々で、「多くの人に聴覚障害を知ってほしい」と願っている。

 雑居ビル8階の「フリーラウンジ StarRain(スターレイン)」。笑顔で客を迎えた粟田さんが、メモ用紙に文字を書いていく。「筆談ホステスのちひろです。よろしくお願いします」

 美馬市美馬町願勝寺生まれ。1歳半ごろに突発性難聴で両耳が聞こえなくなり、3歳ごろに徳島市の県立聾学校(現・県立徳島聴覚支援学校)幼稚部に入学した。

 2007年3月に同高等部を卒業し、藍住町の理容店に就職したものの、同僚や客とうまくコミュニケーションが取れないストレスから約2カ月で退職した。その後も徳島市の企業や病院の食堂などで働いたが長続きしなかった。

 ホステスになったきっかけは、フェイスブックで知り合った札幌市の友人、那珂慎二さん(33)の紹介。おしゃれができる憧れの仕事に「やりたい」と即答した。「耳が聞こえないからできないと、逃げたくはなかった」

 店は、体の不自由な人やお年寄りの手助けをする「サービス介助士」の資格を持つ小林輝(ひかる)さん(29)が経営し、那珂さんも手話スタッフとして働く。

 接客では筆談のほか、手話や読唇術を使う。早口が理解できなかったり、健常者同士の会話に割り込めなかったりと悩みもある。そんな時は保存している客との筆談メモを読み返すなど、障害を強みに変えて努力を重ねている。

 最近は聴覚障害者の客も増えてきた。「筆談の方が気持ちを素直に話せる」と伝えてくれた客もいる。「多くの人の支えがあるから頑張れる。筆談の文字には、普段とは違う会話を楽しみ、障害を知ってほしいとの思いを込めています」と笑顔を見せた。