国連の事務総長というポストは最も名高い国際組織のトップだというのに、どうもなじみが薄い。現職が誰か、どれだけの人が知っておられよう。有名になってなんぼの職ではないが、先々代のコフィ・アナン氏は、珍しく名の知れた総長だった
アナン氏が80歳で亡くなった。知名度が高かったのは、世界を震撼させた米中枢同時テロへの対応などで、頻繁にニュースに登場したのが一つ。そして何より、ノーベル平和賞に選ばれたからにほかならない
世紀をまたいだ在任10年は、米国に翻弄させられた印象が強い。前総長の財政運営を巡り、こじれていた対米関係を改善させたまではよかった
だが同時テロ後に米国が仕掛けたイラク戦争を止められず、再び対立する。「最悪の経験」と退任後も不平を言い続けたそうだから、遺恨はよほどだったのだろう
核兵器に対しては廃絶の姿勢を貫いた。十余年前、日本にこんなメッセージを寄せている。「偉業を成し遂げるために国家が核兵器を保有する必要はない」。政府・自民党内に核保有論議を容認する発言が相次いだことを憂い、くぎを刺したのだという
国連が昨年採択した核兵器禁止条約は、手放しで喜んだに違いない。米国の「核の傘」に頼って条約に賛同しない日本を今、どう見ていよう。メッセージが再び聞こえてきそうだ。