弥生陸上部―。その存在を知るランナー仲間は「ガチな大人の陸上部」と畏敬の念を持って例えます。漫画のタイガーマスクに登場するレスラー養成機関「虎の穴」みたいに危険なにおいがします。かつてイギリスに実在し、往年の名レスラーのカール・ゴッチやビル・ロビンソンを輩出した「蛇の穴」と同じような雰囲気も。職業柄、危ない現場に足を踏み入れるのは大好きです。聞くと、毎週水曜日の午前9時から徳島市のワークスタッフ陸上競技場に集まって猛特訓に励んでいるとか。5月下旬、道場破り(=体験練習)を兼ねて潜入捜査(=アポあり取材)してきました。
午前8時40分ごろに競技場に到着。すでに何人か柔軟運動をしています。ピンク色のTシャツが目に付きます。背中には「弥生陸上部」のロゴ。サングラスを掛けたショートヘアの女性が喝(笑顔?)を入れるイラストが描かれています。びびりながら辺りを見ると、そっくりの女性がいました。代表で元高校教師の森弥生さん。徳島マスターズ陸上競技連盟の副会長やスペシャルオリンピックス日本のスポーツトレーナーなども務める、徳島県内の陸上競技界で名前を知らない人はいません。
この日の参加者は約30人。ジョギングを始めた数人と一緒に1周400メートルのトラックを流します。体が温まってきたので、ペースアップして1キロ3分50秒~4分で10周ほど周回。その後、インターバル走を始めた集団に加わります。
100メートル走をしたり走り幅跳びのコースをダッシュしたりしている人も。後で聞いた話では棒高跳びに挑戦している人もいるとか。マラソンランナーが多いが、短距離や中距離、フィールド競技など取り組む種目は多彩です。年齢層も中高年を中心に若者から70代まで幅広い。練習日が祝日と重なるとメンバーの子どもも参加するそうです。思っていたよりアットホームな空気が漂います。
インターバル走を終えてジョギングしていると森代表に呼び止められました。「腕振りの際に肩に力が入っている」と指摘を受けます。その場で身ぶりを交えながら指導が始まりました。教えていただいた点に意識してトラックを1周します。体の動きがスムーズになった感じ。「これでサブ3(マラソンを3時間以内で完走)間違いなし!」と喝、もとい励まされます。
その後、男性ランナーからも腕振りと足の着地をアドバイスされ、一緒にショートインターバル(200メートル)を数本こなします。最後はスピードについていけず走力不足を痛感。それでも1人で練習しているとなかなか気づかないフォームの欠点を的確に指摘され、大きな収穫がありました。メンバーが持参した玉ネギと、県外の競技会に行ったおみやげの菓子ももらいました。
弥生陸上部は十数年前、森代表が偶然知り合った女性ランナーを指導したのをきっかけに女性4人で練習するようになったのが始まり。メンバーの口コミで少しずつ人数が増え、今ではラインのグループに約50人が登録しています。「真剣にかけっこを楽しむ」がモットーで、ほとんどのメンバーが目標を設定してマスターズ、マラソンなどの大会や記録会に参加しているそうです。ちなみに森代表はボランティアで指導しています。
「仲間がいい記録を出せば、心から喜び合うチームなんです」と笑顔を見せる森代表。フェイスブックをよく見ると、自己紹介欄に「楽しい大人の陸上部」と書かれていました。うん、少し納得。ガチだけど、楽しそうな雰囲気にはまりそうです。
◇
皆さんの意見や感想をお寄せください。ランナーやチーム、練習方法など取り上げてほしい情報があれば、2人が取材して紹介します。問い合わせは電子メールでnii@topics.or.jpです。
【あわラン】現在連載中。記事一覧はこちら↓
https://www.topics.or.jp/subcategory/あわラン~走る阿呆を、書く阿呆
【記者のマラソン体験記】2019~2021年連載。記事一覧はこちら↓
https://www.topics.or.jp/category/news-original/あわラン~記者のマラソン体験記